祈りを、うたにこめて

祈りうた(でくの坊  祈る・十句  祈る・断章)

祈る・十句

 

 

朝だから

祈りの扉あけにいく

 

「がんばるゾ」

三回言って

蒲団はぐ

 

ユウウツもあたしの一部

服を着る

 

(せい)のびを

しても天井(てんじょう)

もっと上

 

祈るひと祈られるひと

傷持って

 

自転車がじっと見守る

祈るひと

 

うつむいて祈るオイラを

犬が舐(な)

 

「祈ります」

どなたに祈って

いるつもり

 

患者の名

なぞって祈る

赤インク

 

神だのみ

血を吐くほどの事でなく

 

 

 

祈る・断章

 

 虫のいい祈りを「祈り」と錯覚したことがある。
 中学で、ワンパクな生徒たちから、「このごろいい気になってるな。調子に乗るなよ」と脅(おど)され、その圧力に負けそうになったことがある。
 いい気になっている自覚も調子づいている気持ちもないと思ったが、彼らにはそう映ったようだ。
 威嚇(いかく)は何日か続いた。その間、わたしは何も言わなかったと思う。にやにや笑いながら取り囲み、すごんで見せる四五名の生徒たちの輪にとじこめられ、正直なところ心臓バクバクになっていた。情けないほど気弱な者だった。
 そのわたしは、家に帰って祈った。仏壇の前に座り、「ナムミョウホウレンゲキョウ」と唱えた。
 その新興宗教の信者ではなかったが、そのときばかりは「僕は苦しんでいます。いじめられて、おびえています。仏様、どうかいじめから僕を助け出してください」と拝んだのだ。
 そのときのわたしは、反省というものをしなかったのではないか。いい気にもなっていない、調子にも乗っていないと自分をかばっていたが、相手は、それも複数の生徒たちは、わたしを傲慢な奴、自分たちを見下している奴と映っていたのだ。
 その自分を振り返りもせず、僕は無実、彼らは言いがかりをつけるワル、そう決めつけて神頼みをしていたのだ。たまたま父が信者で、仏壇があり、「南無妙法蓮華経」の掛け軸がかかっていた。その掛け軸に向かって拝んだのである。
 自分では信じる気持ちをもっていると、思い込んでいた気がする。だが、時間が経ち、イジメが何となく終わったあとには、もう仏壇の前にすわることはなかった。

  「祈ります」どなたに祈っているつもり

 

 k医師は漢方の先生だった。
 診察室に入ると、先生はていねいに挨拶され、患者の緊張をほぐそうとされた。わたしは腰をおろす。
 先生は、机の上に大学ノートを広げておられた。そして、カルテを見ながら、万年筆の青インクで私の名前を書かれた。何だろうと思って、そのノートを思わずのぞいた。すると、青インクの上を、今度は赤インクでなぞり始められた。そして、なぞり終えると、目をつぶり、何やら呟かれた。
 先生に直接うかがったことはなかったが、先生はそのとき祈っておられたのだと思う。患者の名を記し、さらにその上をなぞり、その名前を心に刻んだうえで。
 ノートにはたくさんの名前が書かれていた。今日の患者の一人ひとりの名前だろう。それを書き、それを赤インクでもう一度書き、そして祈る。その祈りを積み重ねておられたのだろう。

 k医師は、わたしに、「あなたの本当の病は体でなく魂です。どうぞ教会へ行ってください」と、そう勧めてくださった医師である。

  患者の名なぞって祈る赤インク

 

 

●ご訪問ありがとうございます。

川柳や俳句を行分けして書くことは一般的ではありません。けれど、今回試みてみました。試みて、行に分けると詩に近い形になり、意味が分かりやすくなりそうだと思いました。
 失敗をおそれず、さまざまな試みをしてみたいと思います。

 

 

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