文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

新書版コミックス初の大ベストセラー 『おそ松くん全集』

2019-10-17 02:37:41 | 第2章

丸美屋の『おそ松くんふりかけ』、東京渡辺製菓の『コビト・おそ松くんチョコレート』と同様、『おそ松』人気の圧倒性を印象付けたもう一つのヒット商品に、『おそ松』連載末期より刊行された『おそ松くん全集』全31巻+別巻2巻が挙げられよう。

『おそ松くん』の単行本は、「シェー‼」が流行語として全国的に広まる以前の比較的早い時期に青林堂と東邦図書出版から、それぞれ全5巻として発売されたが、ベストセラーには至らず、版元の小学館の「ゴールデンコミックス」レーベルより選集が一冊リリースされた後、68年に曙出版が新たに設立した新書版レーベル「アケボノコミックス」の第一号として叢書化され、ここで漸く特大ヒットに繋がったという複雑な経緯を辿ったことでも知られている。

続々と刊行された『おそ松くん全集』は、小学館系各児童誌、少年誌に掲載された作品のみをほぼコンプリートした24巻までの初版分だけでも、一五〇万部以上のセールスを記録し、その後も80年代に入るまで重版に重版を重ねた本シリーズの総売り上げ部数は、最終的に五〇〇万部を遥かに上回ることになる。(『おそ松くん全集』の総発行部数を一〇〇〇万部とする文献(『シェーでギャグのパフォーマンス おそ松くんはギャグの先生だった』/「サンデー毎日」90年8月5日号)も存在する。) 

因みに、連載が終了した70年代後半以降も『おそ松くん』は、ホームコミックス(汐文社・全5巻、76年)、サンコミックス(朝日ソノラマ・全10巻、79年)、ボンボンKCコミックス(講談社・全34巻、88年~89年)、竹書房文庫(竹書房・全7巻、95年+全22巻、04年~05年)、小学館文庫(小学館・全1巻、05年)等、複数の出版社から傑作選や完全版が復刻され、そのシリーズだけでも、凡百のギャグ漫画とは桁違いの冊数を弾き出している。

また、テレビアニメ化の決定により、当初はホームグラウンドである「週刊少年サンデー」一誌のみだった『おそ松くん』の連載が、その便乗企画で、「幼稚園」、「小学一年生」、「小学二年生」、「小学四年生」、「ボーイズライフ」といった小学館系各月刊誌において、相次いで開始されるようになると、そのポピュ ラリティーは弥増しに高まってゆき、連日、赤塚のもとに返信しきれない程のファンレターが、それまで以上に舞い込むようになった。

そうした流れから、オフィシャルファンクラブ「六つ子クラブ」を組織し、ファンとの連帯の輪を広げてゆく。そして、1965年からは、愛読者へのレスポンスとPRを兼ねたファン向けの会報誌「おそ松くんニュース」(全12号)、「おそ松くんブック」(2・3合併号を含む全12冊)、「まんが№1」(全7冊)を、赤塚自ら主宰するフジオ・プロより発刊。日々、驚異的な執筆スケジュールに忙殺され、講演やサイン会などの各種イベントやテレビ出演などにも借り出されていた赤塚が、その編纂にタッチすることは一切なく、マネージャーの横山孝雄に実務のほぼ全てを委ねるが、それでも、赤塚自身、レギュラーの連載や読み切りの執筆の合間を抜い、真心の篭った楽しいコマ漫画や漫画教室を熱心なファンに向けてコンスタントに提供するなど、ファンサービスを怠ることはなかった。

同じく1966年には、『おそ松くん』の爆発的人気に目を付けた華書房より、赤塚にとって初の自伝本『シェー‼の自叙伝』が刊行される。

赤塚の自伝的クロニクルは、僅かに90ページ程度で、残りの不足は、『おそ松くん』、『おた助くん』といった初期の代表的な赤塚ギャグ漫画で穴埋めした、些か杜撰な体裁の新書本であるが、「シェー‼」で満天下を沸かせ、一躍時の人となった赤塚の話題性と、漫画家という職業そのものがまだ広く認知されず、存在自体が物珍しかった時代のバックボーンもあり、『シェー‼の自叙伝』は順調に売れ続け、小規模ながらも、ロングセラーとして注目を浴びた。

尚、この本は、アイデアブレーンからスケジュール管理、スタッフの月給計算に至る雑用総務として、その後も長きに渡って赤塚をサポートしてゆく長谷邦夫がゴーストライターを務めた口述筆記本だ。(赤塚名義で発表された活字媒体の作品の多くは、長谷によって執筆されたものである。)

因みに、この華書房は翌67年に不渡りを出し、倒産したため、フジオ・プロがその在庫の多くを買い取り、新規描き下ろしのカバーを巻き直して読者へ頒布することとなる。

その後、華書房の社長であった末広千幸は、ロッキード事件に揺れ動く1976年、パラグアイにコミューンを作り、日本経済の破綻と国家の滅亡を煽ることで、壮大な移住計画を企てるといった大々的な霊感商法詐欺を働き、世間の耳目を集めるが、この詐欺事件をモチーフにした作品で、彼女をモデルにしたキャラクターとして広く世に知られているのが、藤子・F・不二雄の人気漫画『エスパー魔美』の「大預言者あらわる」に登場する銀河王であることをこの場にて補記しておきたい。


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