1957年には、既に知遇を得ていた講談社の名編集者、丸山昭の計らいにより「少女クラブ」の本誌や別冊付録等に何本かの読み切りを執筆するようになる。
お正月増刊号に掲載された『荒野に夕日がしずむとき』(「少女クラブ お正月増刊号」57年1月15日発行)や、千年杉がそびえ立つ古い洋館で連続して起こった奇っ怪な事件の数々をサスペンスフルに綴った『千年杉の家』(57年11月号別冊付録、原作・みなみせいや)といった別冊付録掲載作品等である。
『荒野に夕日がしずむとき』は、『駅馬車』をはじめ、かねてより傾倒していたジョン・フォード作品に色濃く影響を受けたとされる熱く静かな叙情ウエスタンで、白人とインディアンの壮絶な戦いを軸に、少年と少女のひと時の淡い交流を哀感たっぷりに描いた力作だ。
主人公の少女、ジェニーは、一年前、インディアン退治へと向かったパパとボーイフレンドで幼なじみのジョンに会いに、アリゾナ州のアパッチ砦を訪れる。
ジェニーは、騎兵隊の隊長であるパパと隊員のジョン、同じく隊員で幼なじみのトニーと無事再会を果たすが、アパッチ砦は、度重なるインディアンの奇襲により、もはや陥落寸前であった。
ジェニーは、この土地でジョンとトニーという、二人の幼なじみに会えたことを大いに喜ぶが、ジェニーの知らない間に、ジョンとトニーの友情は、埋め難いほどの溝で引き裂かれようとしていた。
そんな二人を仲直りさせたいと思うジェニーであったが、ある時、隊長とジョンとジェニーは、捕虜であるインディアンが更なる人数を増やし、やがて、この砦を襲撃してくることを告げられ、アパッチ砦に戦慄が駆け抜ける。
隊長は、窮余の策として、インディアンの集落への偵察行きをトニーに命じるが、このことが、立場が上のジョンが臆病風に吹かれ、トニーに危険な任務を押し付けたものだという誤解をジェニーに与えることになり、ジェニーとジョンの関係をも悪化させてしまう。
そんな状況の中、内外に重苦しい緊迫を孕んだアパッチ砦に、夥しい数のインディアンの魔の手が、今まさに迫ろうとしていた……。
風雲急を告げるアメリカ西部の荒涼たる風景を独特の光彩描法と望遠ショットによって色濃く画面に伝えるテクニックは出色であるし、短いページ数でこれだけ濃縮されたプロットをまとめ上げた巧みなストーリーテリングからもわかるように、赤塚のストーリーテラーとしての才覚を十分に示唆した一本とも見受けられるだろう。
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その後、ライバル誌「少女ブック」(集英社刊)からも原稿依頼が舞い込み、幼児の天真爛漫な感性と純真無垢な可愛らしさがほのかな笑いを引き起こす『ほがらか一家』(58年6月号別冊付録)、『マコちゃん』(57年7月号他)、『まさみちゃん』(57年10月号別冊付録)といった家庭漫画や、悲しみに翻弄されながらも、精一杯現実と向き合って生きる少女の誠実でひたむきな生き方が、やがて周囲の人々の心を動かしてゆくという、人への思い遣りや慈しむ心の大切さを瑞々しさを纏った筆致で切実に伝える『小鳩は嵐をこえて』(「少女ブック 夏の増刊号」57年8月10日発行)など、ダイダクティシズムを明瞭に意識した児童文学的側面を持つ作品を発表し、着実にそのキャリアを重ねていった。
ホームグラウンドである曙出版からは『消えた少女』を、新たに依頼を受けた若木書房からは『白い天使』、『お母さんの歌』といった単行本を描き下ろす。