えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

わたしの居場所3

2019-02-14 07:35:12 | 書き物

『ゆきの』

3年になった春。
父が体調を崩して入院したと連絡が来て、帰省することにした。
お正月以来の実家。
病院に行ってみると、思っていたより元気そうではあった。
ただ、父はずっと持病を抱えていたから、心配は消えない…
母には、卒業したら帰って来て就職しろと、何回も言われた。
そこは、ずっと迷ってた所だったけど…
やっぱり、帰るべきなんだろうな。


週が明けて学校に行き、授業が終わると今までと同じようにサークル棟に向かった。
ガラッと引き戸を開けると、ソファで村上くんが本を読んでる。
…のが、いつも見る景色のはずだった。
「あ、ゆき、お帰り」
確かに村上くんはいた。
…でも、隣に誰か座ってる。
その隣に座ってる人が私に笑顔を向けた。
「朝原さん、私、同じクラスの木原陽子。今週、同好会に入ったの。いない間にごめんね」
「木原、さん…」
同じクラス…見覚えがあるような、ないような。
「あ、そうなんだ。よろしくね」
私は、とりあえず座ったまま私達の会話を聞いてた、淳くんの隣に座った。
「ゆき、帰省してたんだろ?何かあったのか?」
テーブルを挟んで向こう側の村上くんが、淡々と聞いてくる。
「ううん。特に何も」
「そっか」
村上くんと喋る時は、いつももっと口数が多いのに、なんだか言葉が出て来ない。
それは、横からじゃなくて前から村上くんを見てるからなんだろうか。
それとも、いつも私が居る場所に、知らない女の子がいるから…?
「ゆきちゃんが来たし、ちょっとお茶しに行かない?」
淳くんが声を掛けてくれて、皆でいつものカフェに行く。
カフェに向かう間、当たり前のように村上くんと並んで歩いてく木原さん。
それを淳くんと歩きながら、後ろから見ている私。
なんだか不思議だ、と思った。
ついこの間まではあそこには私がいたから。


ベルを鳴らして店に入ると、村上くんが座った横に、木原さんがさっさと座る。
私は、体が宙に浮いたみたいな気がして、棒立ちになった。
「ゆきちゃん、こっちおいで」
淳くんに手招きされて、空いてる隣に行く。
結局、男の子3人で1つのテーブル、村上くんと木原さん、淳くんと私で1つのテーブルになった。
コーヒーを待ってる間、前で喋ってる村上くんをチラッと見た。
私には向けた事がない目、表情、声。
それはなぜだか、すぐに分かった。
髪もメイクも指先も、少し鼻に掛かった話し声も。
木原さんは、村上くんの好みの女の子なんだ。
どんな性格かなんて、分からない。
でも、少なくとも見えてる部分は、いつも言ってた『俺の好きなタイプ』だった。
タイプなんて、『こんな特徴の人が好きかも』ぐらいの認識だった。
タイプだからって好きになるとは限らないもの。
でも、村上くんが木原さんに見とれてるのは分かる。
もしかして、惹かれてるのかもしれない…
今まで、村上くんのまわりには木原さんみたいな人はいなかったから。
そんなことを考えたら、息苦しくなった。
淳くんと喋っていても上の空…
私のことは、小さな頃から知ってる近所の女の子みたいって言ってた。
だから、私を好きになんてならないと分かってたんだ…
そう、村上くんは、彼氏でもなんでもない。
誰をどう見ようと村上くんの自由だ。
サークル棟でもここでも、隣に座ろうねなんて約束なんかしてない…
それでも。
好きな人が目の前で、他の女の子を見つめてるとこなんて、見たくなかった。
隣で笑って、喋って。
二人だから楽しいって思ってたのは、私だけだったのかな。
私は何かが空っぽになった胸を押さえて、ため息をついた。




それからというもの、私がいた村上くんの隣は、いつも木原さんがいるようになった。
あんなに喋ってたのに、隣にいなくなったら、村上くんとはすっかり喋らなくなった。
それは、木原さんがいてもいなくても。
そして、私は淳くんと一緒にいることが、多くなった。
淳くんは優しい。
木原さんがいない時に映画館で隣に座ったら、
「僕の隣でいいの」って言われたけど…
もう、隣が空いていても今までみたいに村上くんの隣が、
『私の居場所』なんて、思えなくなったから。
木原さんを見るみたいに、私は見て貰えない。
そのことが、こんなに悲しいなんて知らなかった。
私のことをゆきって呼んでくれた時は、嬉しくて頬が緩んでしまって、気づかれないように頑張った。
映画館で耳元で言われた時は、口から心臓が出そうな位ドキドキした。
たぶん、村上くんはそんなことないんだろうな…
私の気持ちを知ってる淳くんは、
「和也は、鈍感でバカだ」って言ってくれるけど…


夏が過ぎ、ようやく風が涼しくなりはじめた頃。
以前より、同好会に顔を出さなくなった。
淳くんは時々連絡をくれる。
でも、村上くんからは何も無い。
もう、木原さんと付き合ってるのかもしれない…
そう思うと、尚更足が向かなくなる。
今年のクリスマスは、気楽に楽しめる最後のクリスマスだ。
また、居酒屋でパーティーするのかな。
でも、あの二人が一緒にいるのを、見たくない。
11月も終わりが近づいた頃、淳くんから連絡があった。
やっぱり、いつもの居酒屋でパーティーをするみたい。
「ゆきちゃん、気にしないでおいでよ」
「誘ってくれてありがとう。でも、なんか行きづらいな…」
「大丈夫。木原さんは来ないよ」
「え、なんで」
淳くんから話を聞いて、私はクリスマスパーティーに行くことにした。