えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

わたしの居場所4

2019-02-15 17:55:22 | 書き物
『和也』




3年のクリスマスが近づいた。
来年の春には説明会が解禁になる。
お気楽なクリスマスは今回が最後だ。
結局、いつもの居酒屋のいつものクリスマスパーティーに出た。
久しぶりに顔を合わせると、笑顔で
「村上くん、元気だった?」とゆきに言われ、モゴモゴしてるうちにさっさと淳の隣に座ってしまった。
向かいで楽しそうに喋る二人を見て、複雑な気持ちだった。
俺が浮かれていなければ、ああやって隣で喋ってるのは俺だったのかな。
今さら、そんなこと考えても遅いし、だからと言ってゆきを好きかどうかなんて…



4年生の春、説明会が解禁になり、就活にしっかり身を入れなければならなくなる。
俺たちも、同好会は開店休業状態になった。
ゆきとも、遠ざかったまま。
なんとなく気まずくて、何も連絡しなかった。
いつも一緒の頃は、大したことのないことを、始終やり取りしてたのに。
夏に大学の構内で見かけた時は、ショートカットだった髪を伸ばし、1つに結んでいた。
リクルートスーツにヒールのゆきはもう、俺の隣にいたころのゆきとは、別人みたいに見えた。
俺も慣れないリクルートスーツで、汗をかきながら歩きまわった。
第一希望の企業の感触は良かったけれど、それだけでは安心出来ない。
淳も俺も、かなりの企業をまわっていて、毎日へとへとだった。
それでも、夏になるまでには内定が欲しくて、ひたすら歩いた。


必死に取り組んだ甲斐があって、夏には内定を取ることが出来た。
淳も同じ頃で、とにかくホッとした。
久々に淳と顔を合わせた10月。
話の流れがゆきのことになった。
「ゆきちゃん、地元の会社の内定取れたんだって」
淳は、ゆきと連絡を取っていたのか。
「地元って東北だったよな」
「うん。親の希望だってさ」
「そっか…」
卒業したら、ゆきは実家に帰るのか。
しばらく見ていない、ゆきの顔を思い浮かべた。
あんなに近くにいたのに、今はよく思い出せない。
なんだか胸の中ががらんとしたような、変な気分だった。
内定を取れて、学生生活が終わるんだと実感したからか。
俺が黙っていると、急に淳が言い出した。
「和也、もう映画同好会は解散だよな」
「ああ、まあ下級生もいないしそうなるよな」
「じゃあさ、最後に同好会の皆で集まって、クリスマスパーティーやろうよ」
「パーティー?」
「うん。ゆきちゃんも誘ってさ」
「淳、ゆきと会ってないのか」
「ゆきちゃんと?いや…何で?」
「…なんか、付き合ってるのかと」
「何言ってるんだよ」
なぜか、ちょっと怒り口調になってる。
だって、去年はよく一緒にいたじゃないか。
「和也って、本当にゆきちゃんのこと分かってないんだな」
「何だよ」
「ゆきちゃんは、ずっと好きな人がいるんだってよ」
「…好きな人?」
誰だ。
ゆきのまわりに、そんな男いたかな。
「とにかく、俺が会場とか手配するから。決まったら連絡する。」
「分かった」


ゆきの、好きな人…
1人になって考えたけど思いつかない。
それよりも、ゆきが誰かを好きになったんだと思うと、胸の辺りが重くなった。
なんだ、なんでこんな気持ちになるんだ。
化粧っ気が無くて、サラサラしたショートヘアのゆきが頭に浮かんだ。
なんでゆきと喋ってると、あんなに気楽でいられたんだろう。
好き…なのかな。
いや。
だって、ゆきに対してドキドキしたことなんてない。
それは、好きとは言えないんじゃないのか。


12月。
淳に教えられたイタリアンレストランの前に着いた。
少し時間を過ぎてしまった。
もう、ゆきはいるんだろうか。
案内されたパーティールームのドアを開けると、正面のガラス戸越しにキラキラしたイルミネーションが見えた。
一瞬、目を細めてから瞼を上げたら、ガラス戸に張り付いていた女性が振り返った。
振り返った時に、ピンクのふわっとしたスカートが揺れて、綺麗に伸びた脚が見えた。
ゆるくまとめた髪、開いた胸元に光るアクセサリー。
すぐには誰だか分からなくて、眉を寄せてしまう。
…ゆきなのか。
目の前の女性とゆきが一致して、ようやく足が動いた。
「ゆき、久しぶり」
「うん、久しぶり」
俺が近づくと、ゆきが後ずさる。
…なんでだ。
もう一歩近づくと、いきなりゆきがよろめいた。
駆け寄って、手首を掴む。
「危なかった…ゆき、大丈夫か?」
「あ…ありがとう…ごめんなさい」
「脚、挫いてないか?」
「うん…痛くないから…平気だと思う」
そっとゆきの手を離したら、ゆきはその手をガラス戸に当てた。
ガラス戸に映る俯いたゆきは、パールピンクの唇をきゅっと結んでいた。
その唇が、今手を離したばかりの華奢な手首が…
初めて、俺の胸を落ち着かなくさせて、鼓動を早めた。
淳の言う通り、俺はゆきのことを分かっていなかった。
タイプなんてものに釣られて、分かろうとしてなかった。
もうすぐ卒業で、会えなくなるかもしれないのに。


『ゆきの』


大学4年の12月。
久しぶりの同好会メンバー。
私は、淳くんに教えられたイタリアンのお店の前にいた。
『今回は気張って、いい店にしたんだ』
淳くんはそう言って、お洒落して来いよって言ってきた。
お洒落か…
そんな服、実は持ってなかったから、ショップの人に相談しながら一通り買うことにした。

就活の為に伸ばした髪に合う、ヘアアクセ。
そんなに背が高くない私にも似合う、ピンク系のワンピース。
ワンピースに合うピンヒール。
開いた胸元に映えるような、キラキラしたネックレス。
私にしては、思いきった買い物だった。
初めて行ったショップの人が、色が白いから似合いますよとか、鎖骨が綺麗だから襟ぐるは広めのものを、とか…
褒めてくれる度にこそばゆかったけれど、そんなこと初めてだから嬉しかった。