動物園にやってきた。
何故か?それは一枚のチラシがうちに来たからだ。
『×××動物園、今月末に閉園』
この動物園は小さい頃、よく親父に連れてきてもらった。
どうせ今日は暇だ。せっかくだし行ってみるか。
目的の動物園の入り口に着くと、どうやらあのチラシの効果かだいぶ人だかりが出来ていた。
俺は周りと同様にチケット販売の列に並び、順番が来るのを待つ。
そして、チケットを購入し園内へ。
園内に足を踏み入れた瞬間、親父に連れてきてもらった頃をほんの少し思い出した。
広がる広大な敷地に動物園独特のにおい。あの頃はこれだけでわくわくし、今にも走り出したい気分になったものだ。
ただ、今は昔のほどの感動は湧いてこない。成長した証拠だろうか。
順路に従いニホンザル、ライオン、キリン、サイと順番に動物達を眺めていく。
やはりここら辺の動物はメジャーなせいか、随分人が多い。
特にカメラを構えて楽しそうに写真を撮る家族連れが目立っている。
続いて、アライグマやプレーリードッグのような小動物のエリアでは子供が嬉しそうにエサを与えている。
こうして見る限りでは、とても閉園になるようには見えない。それでも裏では経営難などがあったのだろう。
さらにぶらぶら歩きながらあたりを見回していると、妙に人の少ない場所を見つけた。
見れば、そこにはイノシシがいた。
説明では2頭いるらしいが、今は1頭しか見当たらない。
だが、その1頭は寝転がったまま動こうとはしなかった。
その背中に斜めに走った1本の傷が見える。
…思い出した。
このイノシシは俺が初めて見に来たとき、一番元気に動き回っていたやつである。
親父が「あの背中に傷のあるやつ、やけに元気だな」と言っていたのを覚えている。
俺もそのイノシシの元気のよさに喜び、大声で声をかけたものである。
その後もここには何回か訪れたが、それでも一番見たかった動物はこいつだった。
…しかし、今はあの頃の快活な動きが見られない。
怪我だろうか?それとも年取ったのだろうか?
俺が考えていると、そのイノシシはもそもそと体の向きを変えた。
顔が見えるようになる。
そして……目が合った。
その瞬間
「よう坊主、来たのか。久しぶりだな」
―――気のせいかもしれない。幻聴だろう。
でも俺には確かに聞こえた。
しばし、無言で向き合う。
どのくらい経ったのか、イノシシは顔を背けた。
その背中は
「もういいだろ。さっさと帰れ」
そう語っていた。
でも俺はまだ動かない。
だが、あいつの「声」はもう聞こえなかった。
その後、俺は出口へ向かい園内から出た。
閉園した後、あのイノシシがどうなるのか俺は知らない。
もう会うこともないだろう。
だから言っておく。
あの頃の楽しさを、ありがとう
何故か?それは一枚のチラシがうちに来たからだ。
『×××動物園、今月末に閉園』
この動物園は小さい頃、よく親父に連れてきてもらった。
どうせ今日は暇だ。せっかくだし行ってみるか。
目的の動物園の入り口に着くと、どうやらあのチラシの効果かだいぶ人だかりが出来ていた。
俺は周りと同様にチケット販売の列に並び、順番が来るのを待つ。
そして、チケットを購入し園内へ。
園内に足を踏み入れた瞬間、親父に連れてきてもらった頃をほんの少し思い出した。
広がる広大な敷地に動物園独特のにおい。あの頃はこれだけでわくわくし、今にも走り出したい気分になったものだ。
ただ、今は昔のほどの感動は湧いてこない。成長した証拠だろうか。
順路に従いニホンザル、ライオン、キリン、サイと順番に動物達を眺めていく。
やはりここら辺の動物はメジャーなせいか、随分人が多い。
特にカメラを構えて楽しそうに写真を撮る家族連れが目立っている。
続いて、アライグマやプレーリードッグのような小動物のエリアでは子供が嬉しそうにエサを与えている。
こうして見る限りでは、とても閉園になるようには見えない。それでも裏では経営難などがあったのだろう。
さらにぶらぶら歩きながらあたりを見回していると、妙に人の少ない場所を見つけた。
見れば、そこにはイノシシがいた。
説明では2頭いるらしいが、今は1頭しか見当たらない。
だが、その1頭は寝転がったまま動こうとはしなかった。
その背中に斜めに走った1本の傷が見える。
…思い出した。
このイノシシは俺が初めて見に来たとき、一番元気に動き回っていたやつである。
親父が「あの背中に傷のあるやつ、やけに元気だな」と言っていたのを覚えている。
俺もそのイノシシの元気のよさに喜び、大声で声をかけたものである。
その後もここには何回か訪れたが、それでも一番見たかった動物はこいつだった。
…しかし、今はあの頃の快活な動きが見られない。
怪我だろうか?それとも年取ったのだろうか?
俺が考えていると、そのイノシシはもそもそと体の向きを変えた。
顔が見えるようになる。
そして……目が合った。
その瞬間
「よう坊主、来たのか。久しぶりだな」
―――気のせいかもしれない。幻聴だろう。
でも俺には確かに聞こえた。
しばし、無言で向き合う。
どのくらい経ったのか、イノシシは顔を背けた。
その背中は
「もういいだろ。さっさと帰れ」
そう語っていた。
でも俺はまだ動かない。
だが、あいつの「声」はもう聞こえなかった。
その後、俺は出口へ向かい園内から出た。
閉園した後、あのイノシシがどうなるのか俺は知らない。
もう会うこともないだろう。
だから言っておく。
あの頃の楽しさを、ありがとう
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