「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

「次元」と「ひも」の謎―『超ひも理論をパパに習ってみた』

2019年03月23日 | Science
☆『超ひも理論をパパに習ってみた』(橋本幸士・著、講談社)☆

  「70分講義」と銘打ってあるが、さすがに70分では読めなかったものの、ゆっくりと読んでも3時間はかからなかった。多くの読者も同様だと思う。ただし「超ひも理論」にそれなりの興味があり、少し詳しいことを知りたいという動機が必要だ。読者が文系か理系かは問わないが、高校での入門程度の物理や数学の知識があった方が理解も進むし、楽しく読めるのではないかと思う。
  各章ごとに、理論物理学者のパパと女子高校生の娘との会話の部分と、「おまけの異次元」という中級的な解説の部分が対になっている。会話の部分だけを読んでも十分おもしろいが、解説の部分も読むことでより理解が深まる。解説の部分には高校では習わない偏微分方程式なども少し出てくるが、式の導入や展開などには触れず、物理的なイメージの喚起に用いられているだけなので、理解できなくとも気楽に読み進むことができる。
  3次元空間に住んでいるわれわれは1次元や2次元は理解(イメージ)できるし、相対性理論をほんのちょっとでも(あやふやでも)かじっていると、3次元空間に時間軸を加えたものが4次元の時空間であるとの説明も何となく納得できる。しかし、それ以上の5次元だの6次元だの10次元だのと言われても全くイメージできないし、そもそもなぜそのような高次元あるいは多次元(異次元)が物理学に必要とされているのか不思議でならなくなる。
  「超ひも理論」は素粒子物理学の理論であるという。物質を細かく分けてくと分子→原子→原子核→陽子や中性子などの素粒子になるとの一般的な理解では、素粒子は「粒」であるはずなのに、なぜ「ひも」が出てくるのか。「次元」の謎とともに「ひも」の謎も素粒子物理学の謎を深め、興味をかきたてられる元にもなっているが、同時に入門の敷居を高くしているようにも思う。
  実は「ひも」の謎は「次元」の謎と不可分だったのである。「超ひも理論」や素粒子物理学が理解できたなどとはとても言えないが、少なくともわかったような気にさせてくれる。なぜわれわれに異次元が見えないのか、万有引力の法則がなぜ逆二乗法則になっているのか、第3講義までに出てくるその二つのことだけでも、初等物理を学ぶ者にとっては目から鱗であると思う。
  「コンパクト化」の概念や「ファインマン図」の説明など数々の話題を経て、最終的には「マルダセナ予想」(初めて目にした用語!)やブラックホールの謎にまで及び、充実した「70分講義」が終わる。専門の研究者ではないから、そう遠からず読んだ内容は忘れてしまうだろう。しかしそれでも、自分の住む3次元空間のすぐ傍に「異次元」が存在することを知ったことで、この世界を見る目がほんの少しだけ変わったという経験だけは記憶の底に残るのではないかと思う。
  一見軽そうな装丁の表紙で、160ページに満たない本書ではあるが、なかなかの名著である。

  

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