「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

『世代間連帯』

2009年08月15日 | Life
『世代間連帯』(上野千鶴子・辻元清美・著、岩波新書)

  上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』はベストセラーとなったが、その内容は一般化できない(世代や階層をこえて当てはまるものではない)のではないかという疑義も多く出された。辻元清美さんも『おひとりさまの老後』のシナリオに疑念をもった一人だった。それならということで、社会学者と政治家という異なった立場の、また世代も異なる二人の女性が新たなシナリオ作りへと対話を始めた。本書は1年間におよぶ二人の対談をまとめたものである。話題は労働、家族、教育、医療、福祉、税金など多岐にわたる。どれも重要なものばかりだが、すべてを自分の問題として詳しく通覧するのは少ししんどいかもしれない。それでも、自分に関係の深い話題についてだけでも、より広い視野やヒントが得られそうである。
  たとえば、介護保険の「不適切事例」に対する行政側の指導などは実際に経験しているので他人事ではない。現場が柔軟に対応しようとしても行政側がそれを許さない。介護保険は改定という名の改悪が続いているのが現状である。後期高齢者医療制度に対して怒った高齢者も、介護保険の改悪を放置しているのはなぜだろうと上野さんは問う。介護保険利用者の大半が後期高齢者であり、その7割が女性であるとのこと。この人たちは公的にも私的にも発言権をもたず権利意識もない。上野さんは、介護されていることに肩身の狭い思いをしているこの人たちから権利要求が出てくることがないからだろうという。実際に母親を見ていると、上野さんの指摘が的を射ていることがよくわかる。(一方で、文脈は異なるが、男性が「自分が一家の大黒柱」という幻想にすがりついているために男の居場所をなくしているという辻元さんの指摘は、父親を見ているとよくわかる。) 政治家や官僚には介護実習を必修にしてほしいという提言は、もし実現すればすばらしいが実際にはむずかしいだろう。しかし、介護問題が政治や民主主義を測るバロメーターであることは実感としてわかる。介護に悩んだことのある有権者は、お二人の指摘を待つまでもなく、介護問題を政治家を選ぶ際の踏み絵にするだろうが、一般有権者、とくに若者も介護問題を他人事にすべきではない。
  上野さんによれば、日本に障害者運動や女性運動はあったが、当事者運動としての高齢者運動はなかった。いわれてみれば、たしかにそう思う。後期高齢者医療制度に対して高齢者が自らの声をあげたのは、高齢者運動の最初の動きではないかという。ところが、高齢者を大切にすることは若者に犠牲を強いることだと世代間対立が煽られる。保険はリスク分散であるのに、高リスクの人たちだけを集めて持続可能なわけがない。それを「次世代にツケを負わせるな」と若者と高齢者の対立を煽ることで目をそらせようとしていると辻元さんが指摘する。上野さんも、世代間の対立を煽るような分断支配の構図に乗ってはいけないという。「高齢者の安心は、高齢者だけの安心じゃない。歳をとってから切り捨てられるような社会で、誰が安心して働き続けられるだろうか。」 本書のタイトルである「世代間連帯」の具体的なメッセージが、帯にも書かれているこの一文に集約されているように思う。(分断統治の意味では、再三言及されているジェンダー間の分断はいうまでもなく、たとえば派遣やパートの人たちが、自分たちの仕事を奪っているとして外国人労働者の追い出しを訴えた例を辻元さんがあげている。)
  本書の後半では夢も語られている。上野さんは「ゴーバック・トゥ・ザ・百姓・ライフ」を提案すれば、辻元さんは「ハーフターン」の考え方を紹介する。「百姓」は「ひゃくせい」と読み、「百姓・ライフ」とは「仕事も、暮らしも、楽しみも、全部バランスよく、つき混ぜた暮らしを、いつでも、何歳でも、やっていけるように」すること。一方「ハーフターン」とは「都会に生活基盤をもっている人が、週末だけ故郷に戻るというふうに、二地域居住を制度として保障していく」ことで、政策的な提言も示している。現実に「ハーフターン」的な生活をしている身としては、夢のように思いながらも実現を望みたくなる。「ピースでエコでフェアでフェミ、歳をとってもぼちぼちやれる、そんな社会がええやんか」というのが辻元さんのキャッチコピーだそうである。そんな社会がまったくの夢で終わってしまうのか、それとも実現へ向けて少しでも近づくのか。それは政治を経て行うしかない。上野さんはいう、「国民は自分の身の丈以上の政治をもつことができない」そして「政治をバカにしている人たちは、結局、自分たちが政治にバカにされる」と。政治に夢をもてない状況であっても、われわれは政治に無関心であってはいけない。政治に対する無関心や冷笑に反省を迫り、政治に希望をもたせてくれた一冊だった。

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