『しがみつかない生き方』(香山リカ・著、幻冬舎新書)
サブタイトルは「『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」だが、帯に書かれた「〈勝間和代〉を目指さない」の大きな文字が目を引く。とはいえ、香山リカさんは個人的に勝間和代さんを攻撃しているわけではない。〈勝間和代〉的な生き方をできない人たちに目線を向け、その人たちに寄り添うことで「ふつうの幸せ」の求め方を説いているように思う。あるいは〈勝間和代〉的な生き方を是とするいまの時代・風潮に対して疑義を申し立てているといってもいいだろう。常に成功が求められ、成功するために努力が推奨され、失敗すれば努力不足が問われる。そうやって多くの人たちが〈勝間和代〉にはなれず疲弊していく。もちろん〈勝間和代〉になれる人が悪いわけではない。〈勝間和代〉にしがみつくことが問題なのである。10のルール(10の章)の底流に一貫してあるのは、一つの考え方にしがみつかない生き方である。
たとえば「第6章 仕事に夢を求めない」で、香山さんは「生きるため、パンのために働いている」で十分ではないかという。「自己実現のための仕事」と称して「人はパンのみにて生きるにあらず」という聖書の言葉が金科玉条のように語られることが少なくない。もともと医者志望ではなかったという香山さんは、もし宝くじで一億円が当たったら医者の仕事をやめるだろうかと自問する。「お金のために働いているのではない」という答えが自分の中から出てくることを期待するが、仕事と引き換えにする金額は下がる一方だという。しかし、逆に考えれば「目先の生活を何とかしなければ」という思いがある限り働くことをやめないだろうともいう。本当に好きな仕事、自己実現のための仕事ではないからこそ、仕事と適度な距離を保つことができ、パンのための仕事だからこそ、こうして仕事を続けてこられたと香山さんは続ける。逆説的に見えるが、自分にとっての仕事のあり方を考えさせてくれる。
研究職などは「好き」を仕事にしている典型のように世間からは見られているにちがいない。しかし、研究をパンのためにすることは大きなジレンマに陥りかねない。研究してポストにつかなければパンが食べられない、パンを食べるには研究する暇がないという現実があるからだ。この問題を根本的に解決するには制度的な改変が欠かせないことはいうまでもないが、研究職を自己実現と捉えることにも問題があるように思う。まずはパンを食べることを優先して、研究は一つの趣味くらいに考えた方が、こころは穏やかになるのではないかと思う。考え方を変えるといっても現実的に難しいことは百も承知だが、ここでも〈勝間和代〉的な生き方(研究者のあり方)に固執しないように、せめてこころに留めておきたいと思う。
勝間和代さんの『断る力』からはポジティブなメッセージを受け取った。しかし、実際のところポジティブな生き方を抜けるかどうかは保証の限りではない。一方で、香山リカさんの著書からは、ネガティブな生き方や考え方も肯定してくれる安らかさをいつも感じる。多筆の香山さんの著書をすべて読むことはできないだろうが、それでもいままでにある程度の数の本は読んできた。アマゾンのレビューなどを見ると香山さんの評価は賛否が分かれている。ときに様々な問題の原因を社会に求めるよりも、どちらかというと自分の内側の問題として捉える姿勢にも、評価を分ける理由があるのかもしれない。その意味では本書も賛否が分かれるだろう。しかし、こころが強くない人や弱い立場に立たされた人にとっては、少しでも気持ちを軽くしてくれる一冊のように思う。
サブタイトルは「『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」だが、帯に書かれた「〈勝間和代〉を目指さない」の大きな文字が目を引く。とはいえ、香山リカさんは個人的に勝間和代さんを攻撃しているわけではない。〈勝間和代〉的な生き方をできない人たちに目線を向け、その人たちに寄り添うことで「ふつうの幸せ」の求め方を説いているように思う。あるいは〈勝間和代〉的な生き方を是とするいまの時代・風潮に対して疑義を申し立てているといってもいいだろう。常に成功が求められ、成功するために努力が推奨され、失敗すれば努力不足が問われる。そうやって多くの人たちが〈勝間和代〉にはなれず疲弊していく。もちろん〈勝間和代〉になれる人が悪いわけではない。〈勝間和代〉にしがみつくことが問題なのである。10のルール(10の章)の底流に一貫してあるのは、一つの考え方にしがみつかない生き方である。
たとえば「第6章 仕事に夢を求めない」で、香山さんは「生きるため、パンのために働いている」で十分ではないかという。「自己実現のための仕事」と称して「人はパンのみにて生きるにあらず」という聖書の言葉が金科玉条のように語られることが少なくない。もともと医者志望ではなかったという香山さんは、もし宝くじで一億円が当たったら医者の仕事をやめるだろうかと自問する。「お金のために働いているのではない」という答えが自分の中から出てくることを期待するが、仕事と引き換えにする金額は下がる一方だという。しかし、逆に考えれば「目先の生活を何とかしなければ」という思いがある限り働くことをやめないだろうともいう。本当に好きな仕事、自己実現のための仕事ではないからこそ、仕事と適度な距離を保つことができ、パンのための仕事だからこそ、こうして仕事を続けてこられたと香山さんは続ける。逆説的に見えるが、自分にとっての仕事のあり方を考えさせてくれる。
研究職などは「好き」を仕事にしている典型のように世間からは見られているにちがいない。しかし、研究をパンのためにすることは大きなジレンマに陥りかねない。研究してポストにつかなければパンが食べられない、パンを食べるには研究する暇がないという現実があるからだ。この問題を根本的に解決するには制度的な改変が欠かせないことはいうまでもないが、研究職を自己実現と捉えることにも問題があるように思う。まずはパンを食べることを優先して、研究は一つの趣味くらいに考えた方が、こころは穏やかになるのではないかと思う。考え方を変えるといっても現実的に難しいことは百も承知だが、ここでも〈勝間和代〉的な生き方(研究者のあり方)に固執しないように、せめてこころに留めておきたいと思う。
勝間和代さんの『断る力』からはポジティブなメッセージを受け取った。しかし、実際のところポジティブな生き方を抜けるかどうかは保証の限りではない。一方で、香山リカさんの著書からは、ネガティブな生き方や考え方も肯定してくれる安らかさをいつも感じる。多筆の香山さんの著書をすべて読むことはできないだろうが、それでもいままでにある程度の数の本は読んできた。アマゾンのレビューなどを見ると香山さんの評価は賛否が分かれている。ときに様々な問題の原因を社会に求めるよりも、どちらかというと自分の内側の問題として捉える姿勢にも、評価を分ける理由があるのかもしれない。その意味では本書も賛否が分かれるだろう。しかし、こころが強くない人や弱い立場に立たされた人にとっては、少しでも気持ちを軽くしてくれる一冊のように思う。
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