夢の羅列<ロシアンアパート・part3> 20180407採取
つづき。
「早く、早く。」私はそれしか言えなかった。「早く、早く。」
B棟の十数人すべてが渡り終えると、束の間の安堵も儚く、
傾き始めたアパートは、ある閾値の角度を越えた瞬間に、
ロシア人たちの懸命な引っ張りも役に立たなくなり、
一気に向こう側へ倒れようとして、とうとう目にもわかるほどの動きを見せた。
一瞬の出来事を私はスローモーションで見ているかのようだった。
A棟とB棟の距離が離れ、目の前の板の橋が2本とも無惨に落ちた。
次に来る悲惨を私はすでに自覚し、口を押さえて声にならない声を出しかけた。
その時、強烈に鈍い音が響いた。
音とともにB棟の傾きはあっさりと止まった。
石の巨人が雷に打たれて、立ったまま前のめりに即死でもしたかのようだった。
どうやらそのまた向こうにある建物につかえたらしい。
私は倒壊寸前で土俵際に残ったB棟を見ながら、これは幸運なのか、不運なのか、
判断がつかずに、いや、どちらかといえば、ある種のパニック状態であった。
こちらの屋上へ移ってきたB棟の居住者の中に小さな女の子もいた。
まだ就学前ほどの外国人の子で、倒れかけた自分のアパートを見つめていた。
屋上の風はまだ冷たく、誰かがほうじ茶を淹れて持ってきた。
女の子の茶碗にも注がれたが、それがもう縁まで一杯に注ぐから、
そんな熱いお茶を子供になみなみと注ぐやつがあるかよ、と思ったが、
こんな場面でしかも善意に対してぐちぐち言っても仕方がないし、
それに自分の反応と思考がちょっと口うるさいおじいちゃんぽいなとも思い、
「熱いから気をつけろよ」と女の子に注意をしただけだった。
髪の色の薄い赤いパーカーの女の子は、「ふーっ」と吹いて口をつけた。
その時、また下から悲鳴と怒声が同時に聞こえてきた。
つづく。
つづき。
「早く、早く。」私はそれしか言えなかった。「早く、早く。」
B棟の十数人すべてが渡り終えると、束の間の安堵も儚く、
傾き始めたアパートは、ある閾値の角度を越えた瞬間に、
ロシア人たちの懸命な引っ張りも役に立たなくなり、
一気に向こう側へ倒れようとして、とうとう目にもわかるほどの動きを見せた。
一瞬の出来事を私はスローモーションで見ているかのようだった。
A棟とB棟の距離が離れ、目の前の板の橋が2本とも無惨に落ちた。
次に来る悲惨を私はすでに自覚し、口を押さえて声にならない声を出しかけた。
その時、強烈に鈍い音が響いた。
音とともにB棟の傾きはあっさりと止まった。
石の巨人が雷に打たれて、立ったまま前のめりに即死でもしたかのようだった。
どうやらそのまた向こうにある建物につかえたらしい。
私は倒壊寸前で土俵際に残ったB棟を見ながら、これは幸運なのか、不運なのか、
判断がつかずに、いや、どちらかといえば、ある種のパニック状態であった。
こちらの屋上へ移ってきたB棟の居住者の中に小さな女の子もいた。
まだ就学前ほどの外国人の子で、倒れかけた自分のアパートを見つめていた。
屋上の風はまだ冷たく、誰かがほうじ茶を淹れて持ってきた。
女の子の茶碗にも注がれたが、それがもう縁まで一杯に注ぐから、
そんな熱いお茶を子供になみなみと注ぐやつがあるかよ、と思ったが、
こんな場面でしかも善意に対してぐちぐち言っても仕方がないし、
それに自分の反応と思考がちょっと口うるさいおじいちゃんぽいなとも思い、
「熱いから気をつけろよ」と女の子に注意をしただけだった。
髪の色の薄い赤いパーカーの女の子は、「ふーっ」と吹いて口をつけた。
その時、また下から悲鳴と怒声が同時に聞こえてきた。
つづく。