昭和63年秋以降、昭和天皇の重病の快癒を願う「記帳所」が多くの自治体において設置され、それに公金が支出された。
千葉県住民のX氏は、千葉県が「県民記帳所」設置に公金を支出したのは違法であり、昭和天皇の不当利得返還債務を現天皇が相続したとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき千葉県に代位して返還請求を求める住民訴訟を提起した。
1審の千葉地裁は、民事裁判権の及ばない相手を被告とする訴えで不適法却下という判決を下し、原審の東京高裁もそれを支持した。
原告はそれを不服として、訴訟手続きの法令違反、裁判を受ける権利の侵害、平等原則違反などを理由に上告した。
最高裁は、「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。したがって、訴状において天皇を被告とする訴えについては、その訴状を却下すべきものであるが、本件訴えを不適法として却下した第1審判決を維持した原判決は、これを違法として破棄するまでもない。記録によれば、本件訴訟手続きに所論の違法はなく、また、所論違憲の主張はその実質において法令違背を主張するものにすぎず、論旨は採用することができない。」と述べ、『上告棄却』の判決を言渡し原告側敗訴が確定した。(最判平成元年11月20日民集43巻10号1160頁)