思想・良心の自由の侵害が争われた事件としては、裁判所で謝罪広告を命ずることができるか否かが問題となった事件がある。
謝罪広告強制事件
衆議院選挙に際して、他の候補者の名誉を毀損した候補者が、裁判所から民法723条にいう「名誉ヲ回復スル適当ナル処分」として、「右放送及び記事は真相に相違しており、貴下の名誉を傷つけ御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」という内容の謝罪広告を公表することを命ずる判決を受けたので、謝罪を強制することは思想・良心の自由の保障に反するとして争った事件である。
最高裁は、謝罪広告の中には、それを強制執行すれば、「債務者(加害者)の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由ないし良心の自由を不当に制限すること」となるものもあるが、本件の場合のように、「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表すに止まる程度」であれば、これを代替執行によって強制しても合憲であると判示した。(最大判昭和31年7月4日民集10巻7号785頁)
反対意見には、「この判決には事物の是非弁別の判断に関する事項の外部への表現を判決で命ずること、あるいは、謝罪・陳謝という倫理的な意思の公表を強制することは、良心の自由を侵害し違憲である。」とあり、これを支持する学説が有力である。(芦部信喜著「憲法 第三版」より抜粋)