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読書メモ ローナ・ウイング著、久保ら訳 自閉症スペクトラム 東京書籍 1998 その5

2020-03-27 15:56:16 | 発達臨床
第四章 自閉症スペクトラム障害をもつ子どもの行動

○1.「自閉性障害をもつ子どもの多く、おそらくはそのほとんどは、乳児期から社会性とコミュニケーションの障害の徴候を示す」
☆ごくごくまれに社会性とコミュニケーションの障害を示さない自閉症の子どももいる?
もう少し年長になってその特徴があら わになってくるということだろうか?
   自閉性障害とは社会性とコミュニケーションの障害を意味するので、それが見られないということは
自閉性障害ではないということなので。
2.乳児は動き回ることができないので、障害の徴候はわかりにくく親は見逃しやすい。
(1)乳児期の行動
 1. 親の中には誕生間もなく何かがおかしいと感じる場合があるが、なぜそう感じたかはほとんど言うことができない。
☆この何か、こそが本態に関連しているのでは?
 2.お乳をうまく吸えないなど授乳の問題はかなり共通している。
3. 三つのタイプ
①一番多いのが「天使の赤ちゃん」:おとなしく要求が少なく、一日中静かに満足そうにしているタイプ
④わずかだが、昼も夜も泣き叫びいくらあやしたりなだめたりしても止まらない赤ちゃん
③どちらにもあてはまらず、何の異常な特徴も示さないタイプ
 4.サイモン・バロン=コーエン;生後18ヶ月の段階で、人や動物や行き過ぎる光景への好奇心をもったり、
そうしたものを見たり指さしたりして母親の注意を引こうとしない場合、その子はまず自閉症の可能性が高い。
5. 身体的には普通に成長するが、運動スキルの発達は遅れることが多い。とりわけアスペルガー型の人に顕著
6. 言語面の発達が遅れがち。
(2)診断的意義をもつ行動
  ○自閉症スペクトラム障害の診断的意義をもつ行動は、就学前の年齢で現れてくる
1.社会的相互作用の障害
 a)孤立群
 b)受動群:最も数が少ないタイプ
☆経験的にはむしろ最も多いと感じる。
 c)積極奇異群
 d)形式張った大仰な群:見られるのは青年後期以降。最も能力が高く良好な言語レベルの人たちに現れる

(2)コミュニケーションの障害
 ○言語に障害がある場合もない場合もある、しかし、その使い方に問題がある。
1.話し言葉を使うこと
・話し言葉の発達と異常-よく見られる ←カナーは、カナー症候群の核心部分とみていた
 ・ASDの子どもの4,5人に人はくらいは言葉を話さず、生涯にわたって話さないまま。
 ・その他の子ども達は、話し言葉が発達するが、普通に比べてずっと遅れて始まる
 ・エコラリア、遅延んおエコラリアがよく見られる
  *状況とそのときに他者が発したことばとがそのまま結びついて学習される傾向大。
 ・同じ言葉や文を特定の状況でいつも使う。
 ・繰り返し言葉の段階から、次の段階-自分の力でわかった単語や語句を必要な時に使用することへと進む子どももいる。
 ・文法的、意味的間違いを繰り返しながら、少しずつ。
・前置詞抜き、前置詞の使い方の間違い、反対語の混同、対になっている言葉の混同
 ・大人になっても話し言葉に異常が残る人もいる。
  言葉が進歩し、正しい文法と豊富な語彙を発達させる人もいる ~ アスペルガー型
  しかし、そのような人でも、気づかれにくい問題をいくつも抱えている。
 ・話すことができるASDの人たちは、繰り返しの内容が多く、同じ質問を延々と繰り返したり、
  自分が特に関心を持っていることの長話を相手の人の反応いかんに関わらずしゃべり続けたりする。 
2.話し言葉を理解すること
 ・理解の程度についても大きな幅がある。
 ・部屋の外から一つまたは二つの物を取ってくるようにさせれば、その言葉の意味を理解したかどうかがより明らかになる。
・言語理解の混乱が起きる原因の一つは、言葉の意味理解に柔軟性を欠くこと。
 ・同じ発音で異なる意味をもつ単語で問題が生じやすい。
 ・文の中の一,二語だんけに反応して、そのほかを無視してしまう傾向。
 ・最も大きな特徴は、言葉を文字通りに解釈すること。
3.口調と声量調節
 ・不自然な口調で話し、単調だったり変な抑揚があったり、声量の調節が難しい場合が多い。
4.非言語的コミュニケーションを使うこと、理解すること
 ・言語障害があっても自閉性障害をもたない子ども達は、ジェスチャーやパントマイムなどでコミュニケーションを補うが、
ASDを持つ場合、代替のコミュニケーションも適切に使用できない。
 ・ASDの幼児の非言語的コミュニケーションの理解はには多くの問題がある。しかし、成長につれて、明確で単純なジェスチャーや
表情の意味がいくらかわかるようになる。さらに言われたことの全体的な前後関係ばかりでなく、人の動作の中にも手がかりを見つ
けることによって、能力以上の理解ができるようになる。
(3)想像力の障害
 ・ASDの子どもたちは、ごっこ遊びや創造的な活動がスムーズには発達しない。
 ・おもちゃは物の感覚的な楽しみだけのためにいじるか、機能的な使用のためにのみ使う。
 ・想像力らしきものを見せる子どももいるが単純な流れを反復していることがほとんど。
 ・そのような遊びに友だちを誘うことはないが、あるとしても友だちにその繰り返しの動作に加わることを求める。
・子ども同士の創造的な遊びには加わらない。関心をもったとしてもどうしたらいいかわからない。
・ASDの子どもによって行われる想像的と思われるもう一つの行動のタイプ:TVや本の主人公のまね。
動きは限定的、反復的で創意はない。その特徴は、子どもが登場人物や物のふりをしているよりはそのものになりきっていること。
・ASDの人たちは、①想像的な空想を楽しむことはしない。②他人の感情の理解が限られるか全くなく、喜びや悲しみを分かち合うこ
とは困難。③人と考えを共有したり。現在や過去の経験を将来の計画に活かす能力に欠けている。
・彼らは楽しみを、自分の特異な興味の中に見いだす。
(4)反復した常同的動作
・この側面は、想像力の障害というコインの裏面とみなすことができる。
・(想像力およびそれを他者と共有する楽しみがなれけば)何らかの楽しみをもたらす動作を反復して安心することだけになる。
(ⅰ)単純な反復的動作
 ・最も単純なものは、反復的な感覚的体験
~いろいろな物の表面を味わい、かぎ、感じ、あるいは叩いたり、機械音を聞いたり、
    光り輝く物をじっと見詰つめたり、目のそばで手や物をひねったりひっくり返したり、物をさまざまな角度から見つめたり、
電灯をつけたり消したり、物をくるくる回したり、あるいは回っているものを見たりする
  時に、自分を噛んだり、頭突きをしたり、引っ掻いたりするなどの自傷のカタチを取る。
→悩み、怒りや欲求不満の反応の一つであることが多い、また、することのないときにする反復的行動である場合もある。
(ⅱ)手の込んだ反復的なルーチン
 ・こうしたルーチンの固執は、カナー型の子どもに見られる。
 ・物を一直線に並べる、複雑な順序で体を動かす、持ち物を厳密な配列にするなど
 ・親が始めた行動から受け継いだルーチン:同じ道、同じ席、
 ・特定のものへの愛着
 ・偏食
・ビデオや音楽、音楽と視覚刺激を組み合わせたコマーシャル
 ・能力の高い子どもでは、特定のものへの虜になるかたちをとる。時刻表、恐竜、天気、天文学など。その興味は収集すること。記録
すること。それについておしゃべりすること。
[感想・考察]
 ASDの人たちの状態像が具体的によく描かれていてわかりやすい。現在においてもASDの人たちの状態像を記述するとして、ウイング氏以上のことを書くのは難しいだろう。とすると、次の課題というか謎は、こうし状態像や行動特徴はなぜどのように生じるのかと
いうことであろう。ウイング自身は、それを脳神経学によって解明されていくものと考えているようだ。しかし、脳と状態像・行動特徴との関連がわかってくるにしても、なぜそのようなことが生じるのかの説明は心理学的なものになるのではなかろうか?
 たとえば、反復的行動や固執は、心理学的な法則として仮説される『なじみの法則』(一度経験したことやなじんだことは、そうしても生き延びることができているという事実によって、ポジティブな性格を帯びるという法則)によって説明されるかもしれない。

読書メモ ローナ・ウイング著、久保ら訳 自閉症スペクトラム 東京書籍 1998 その4

2020-03-24 11:41:38 | 発達臨床
第三章 診断するということ

(1)自閉性障害の診断には難しい面が残っている
1.見ただけでわかるというわけにはいかない。
 2.自閉症の診断ができる検査はないし、サブグループを鑑別できる検査も開発されていない
 3. 血液、X線、脳スキャン、脳波およびその他の身体的検査をしても答えは出せない
4. 「心の理論」の諸検査はあるが、それで診断はできない
(2)診断は、幼少期から見られる行動パターンを知ることによってなされる
  ○診断のために提案されたシステムでの診断に当たって不可欠とされる特徴の共通点
   ①社会的相互作用の障害
   ②コミュニケーションの障害
   ③想像性の障害
   ならびに、硬直した反復的な行動パターン 
○しかし、諸事情によって、診断に不一致が起こる。
○診断にあたっては、
   1)乳児期からの病歴と現在の行動についての記述が、親の面接を通じて体系的に集められ    ること → 自閉症スペクトラム障害の診断用に組まれた質問票を用いること
2)行動観察
3)一連の心理検査
(3)サブグループ
1.カナー型とアスペルガー型の典型例はある。両方の特徴を持っている例もある。年齢によ  って変化することもある。
2. ICDやDSMでは、アスペルガー型は初語の発現時期や適応スキルの発達に遅れはないこと  を他の自閉症との違いとしている。しかし、アスペルガー型の人の多くに言語開始の遅れな  どがよくみられる。
3. ICD-10における非定型自閉症=DSM-4における広汎性発達障害という診断
→ 親にとっては役に立たない。同じ症状を示し同じニーズを抱えているから。
 4.「小児期崩壊性障害」
:生後2年まで発達が正常で、以後次のうち二つの領域でスキルを喪失する
    言語、遊び、社会的スキルまたは適応行動、排泄の制御、運動スキル
→ この診断名も混乱の元。
  自閉性障害をもつ子どもで、生後1年ごろにはことばが出たのにその後話さなくなるこ  とがある。その後話すようになるときもならないときもある。
  a.臨床像の上で自閉症と区別がつかない。b.経過や予後の点では、同じ重症度にある他                      の自閉症障害と同じ
崩壊という言葉:ごくまれに脳の進行的な病変があるためにそうなる場合があり、
その進行過程の一段階において自閉的な行動パターンが観察される
この病態については、本態が何であるかをはっきりさせる必要がある。その上で、通常の自閉症スペクトラム障害と区別する必要がある。
→ 自閉症スペクトラム障害の人を援助する立場からは、
   自閉症スペクトラム障害の下部グループの診断は、ほとんど意味がない。
 (臨床的に重要なこと)①まずその人が自閉症スペクトラム障害であるかどうかの区別
②その上で、能力のパターンを見極める

[感想・考察]
・この人はASDだなということはわりととらえやすいが、確かにそうかという医学的診断となると相当な情報を集めてでないと
 確度が下がるということと、情報がいくらあったとしてもそれはあくまでも“状況証拠”の次元でしかないという困難がある。
 それに、最近よく経験するが、発達障害の知識があると人をそのように理解すること・類別することが多くなるということで
 ある。それによってその人についての理解が深まり、関わりに役立ち、結果としてその方が生きやすくなればいいのだけれど
 そして、そのような場合が多いのだなということも感じている。ただ、しかし、とも思う。この判然としない思いは何だろう?
・孤立型や受動型などのタイプ分けはかって盛んに活用されて、それなりに子ども理解には役立つ面があったと思うが、現在は
 どうなのだろうか?現在もなお役立つ類型として活用されているのだろうか? このタイプ分けには、もう一つ謎があって、
 それは発達との関連である。この類型は、ひょっとして発達次元の違いを表しているのではないかという問いである。
・ASDの下位分類について批判的なウイングの意見には共感を覚える。ただ、アスペルガータイプという分類は、便利で有効だ
 なという経験的な感触はまだ強い。しばらく、その感触と分類の意義との矛盾を持っておくことが大事かなと思う。

読書メモ ローナ・ウイング著、久保ら訳 自閉症スペクトラム 東京書籍 1998 その3

2020-03-19 12:10:58 | 発達臨床
第三章 診断するということ

(1)自閉性障害の診断には難しい面が残っている
1.見ただけでわかるというわけにはいかない。
 2.自閉症の診断ができる検査はないし、サブグループを鑑別できる検査も開発されていない
 3. 血液、X線、脳スキャン、脳波およびその他の身体的検査をしても答えは出せない
4. 「心の理論」の諸検査はあるが、それで診断はできない
(2)診断は、幼少期から見られる行動パターンを知ることによってなされる
  ○診断のために提案されたシステムでの診断に当たって不可欠とされる特徴の共通点
   ①社会的相互作用の障害
   ②コミュニケーションの障害
   ③想像性の障害
   ならびに、硬直した反復的な行動パターン 
○しかし、諸事情によって、診断に不一致が起こる。
○診断にあたっては、
   1)乳児期からの病歴と現在の行動についての記述が、親の面接を通じて体系的に集められ    
ること → 自閉症スペクトラム障害の診断用に組まれた質問票を用いること
2)行動観察
3)一連の心理検査
(3)サブグループ
1.カナー型とアスペルガー型の典型例はある。両方の特徴を持っている例もある。年齢によ  
って変化することもある。
2. ICDやDSMでは、アスペルガー型は初語の発現時期や適応スキルの発達に遅れはないこと  
を他の自閉症との違いとしている。しかし、アスペルガー型の人の多くに言語開始の遅れな  
どがよくみられる。
3.ICD-10における非定型自閉症=DSM-4における広汎性発達障害という診断
→ 親にとっては役に立たない。同じ症状を示し同じニーズを抱えているから。
 4.「小児期崩壊性障害」
:生後2年まで発達が正常で、以後次のうち二つの領域でスキルを喪失する
    言語、遊び、社会的スキルまたは適応行動、排泄の制御、運動スキル
→ この診断名も混乱の元。
  自閉性障害をもつ子どもで、生後1年ごろにはことばが出たのにその後話さなくなるこ  
とがある。その後話すようになるときもならないときもある。
  a.臨床像の上で自閉症と区別がつかない。
b.経過や予後の点では、同じ重症度にある他の自閉症障害と同じ
崩壊という言葉:ごくまれに脳の進行的な病変があるためにそうなる場合があり、
その進行過程の一段階において自閉的な行動パターンが観察される
この病態については、本態が何であるかをはっきりさせる必要がある。
その上で、通常の自閉症スペクトラム障害と区別する必要がある。
→ 自閉症スペクトラム障害の人を援助する立場からは、
   自閉症スペクトラム障害の下部グループの診断は、ほとんど意味がない。
 (臨床的に重要なこと)①まずその人が自閉症スペクトラム障害であるかどうかの区別
②その上で、能力のパターンを見極める

読書メモ ローナ・ウイング著、久保ら訳 自閉症スペクトラム 東京書籍 1998 その2

2020-03-17 14:18:12 | 発達臨床
第二章 自閉症スペクトラム障害とは

1. 「自閉的行動は発達の障害の結果である」と認識

 どんなスキルが適切に発達しないのか?
当初は、「言語発達に基づいて自閉的行動が生じる」と考えられた。
→ 得意な言語障害の克服により、根本的な改善がもたらされるのではないか?
しかし、言語発達に問題がみられないにも関わらず自閉的行動をもつ人がいた。
この仮説は否定される。

2.自閉症スペクトラム障害のある子どもの親の記憶から

 健常児の発達
0歳児 
①特に母親や他の養育者などをはじめとして、他人の姿や声に対して生まれつきに備わった関心がある。
②言葉が出る以前から、身体を動かしたり赤ちゃん声をあげたりしながらどうにかしてコミュニケーシ
  ョンをとろう、他人からのコミュニケーションに反応しようとする意欲が見られる。
生後2年目 想像力
 ①遊びは単純な感覚を求めてだったのが、はっきりとした目的をもつようになる    
②次にごっこ遊びとなる ~ あるものを他の何かに見立てて遊ぶ
 ③やがて仲間遊び ~ 複雑な想像遊びをするようになる
想像の中ではどんなスキルでも可能となる
     想像によって社会的遊びの中で別の人になったふりをし、その人の社会的役        
割を演じるようになる。
これが可能となるのは、「心の理論」(人には思考や感情があるとの認識)の発達
これらの能力は、脳の機能に基づいている。
→ 自閉性障害をもつ子どもたちは、この能力が欠けていたりひどく損なわれたりしている。

3.キャンベル調査の結果より
 どんなタイプであれ自閉的特徴ををもつどの子どもの次の3点、
①人との相互交渉、②コミュニケーション、③想像力の発達
 が共通してかけていたり、障害されていたりしていた。
 プラス、どの子どもにも狭く固い反復的活動や興味のパターンがあった。

4.三つ組の根底にあるより基本的な精神機能の障害

(A)「①過去の記憶のなかや今起きていることからあらゆる情報をまとめあげ、
    ②経験したことの意味を理解し、
    ③将来何が起こりうるのかを予測して計画を立てる能力」
の欠如
→ ①世の中の意味を理解できず経験から学ぶことが困難
②自分自身を時間と空間の中に有機的に構造化することが困難
ウタ・フリス 「全体的統合への動因と呼ぶものが欠けている」

入ってくる情報が複雑になればなるほど、自閉性障害のある人が理解するのは困難となる
   人間は、会話・動作・反応などが非常に複雑かつ変化に富んでいるので、社会的相互交渉  
   の障害が自閉性障害の主要な特徴であるとしても自然なこと

(B)さらに深いレベルでは・・・
   さまざまな経験に対して、それぞれ異なった感情的意義をもたせるという、普通は生まれ   
備わっているシステムが障害されている可能性がある。

→ 重要な事項と些細な事項とを区別する能力が損なわれているようである
とりわけ、他人への関心の欠如こそが決定的な特徴
      これに伴って、無意味に思えるような特定の物や体験に対する特有な魅了のされ方

現在のところは、この基本的な精神機能の障害については研究が必要な仮説段階
 なので、当面は「三つ組」を探し出すことにより、自閉症スペクトラム障害の識別をせざるを 
得ない