各地区で高校野球の春季大会の声が聞かれてきています。昨年末に「新潟野球サミット」で結果、春季大会で投球制限を導入することを発表した新潟県高野連。その後、本店からの指導もあって、導入の先送りになりました。
すでに組み合わせが決まっていますが、投球制限が導入されていたら、どのような戦いになっていたか興味のあるところです。
さて、あまり報道されていませんでしたが、この「野球サミット」で興味深い宣言がありました。それは、新潟県勢として春夏合計8度の甲子園出場を誇る、新潟明訓高野球部の波間一孝部長が「新潟明訓は丸刈りをやめます」と宣言しました。当時監督代行だった今井也敏コーチと話し合い、「そろそろ(丸刈りを)やめませんかと今井コーチから言われ、私もそうだよな、と」。としたそうです。新潟明訓高は伝統的に髪形を規制したことはありませんでしたが、そこから1歩踏み込んだかたちになりました。
もともと、高野連の規定には「坊主奨励(長髪禁止)」はなく、甲子園出場校においても長髪の野球部もありますが、やはり、強豪校の行動は他チームへの影響は大きいと思います。
今回、新潟明訓高が丸刈りをやめる宣言となったきっかけの1つは高校野球の人口の減少にあるそうです。全国的な調査で野球をやっていた中学生の約半数が高校では行わないというデータがあり、その理由の多くが、「丸刈りにしたくない」からなのです。「それならば高校側がしなくてもいい環境にすればいい」と波間部長は語っています。
また、同校OBでNPOに所属し、海外で子どもに野球を教える活動を行う阪長友仁さんの影響もあったそうです。阪長さんは子どもが野球をやりやすくするため、高校野球の変化の必要性を説いていて、「高校野球=丸刈り」への違和感があったとのことです。
昨年の夏の甲子園に10年ぶりに出場した、神奈川・慶応高は高校野球の「次なる100年」に向けて、森林貴彦監督は新チーム結成直後、「日本の高校野球を変える。長髪でも勝てることを証明しよう」と語りかけたそうです。その思いの根底には同様に、長年、慶応ナインが抱えてきた違和感があったそうです。
そんな中で、高校野球=丸刈りのイメージの中、慶応高はその対極にあり、髪形にしても、部内の規律にしても緩いといいます。ただ、それゆえに心苦しい思いもあるそうです。甲子園で対戦した、(奇しくも新潟県の)中越高の選手は、「どうしても、心のどこかで『長髪のチームには負けたくない』という気持ちが出てしまうんです」と言っています。また、これまで幾度となく“やっかみ”にも似た視線もあったそうです。
それでも、慶応高は、「長髪だからとか、規律が緩いからとかは関係ない」と言い切ります。それでも、現実として周囲はそういう目で見ていると思います。だから、「風潮を変えたい」ということだと思います。「ウチみたいなチームが勝ち上がって、高校野球の旧態依然のイメージを払拭したい」「最前線を行っているのは僕らだ、という信念がある」と言っています。確かに見た目が技量や強さと直結することはありません。そんな慶応高の訴えは勝ち上がることで説得力は増していくはずです。そのためには、良いチームというだけじゃダメなんです。やっぱり勝たないとついてこないでしょう。
慶応の教育理念は、「独立自尊の気風にとみ、自主性と気品を重んじ、将来『全社会の先導者』となる人材を育成する」です。
さて、新潟明訓高の波間部長は昨年末に選手に、「『みんなで伸ばそう』と言いました。『部としての挑戦だ』」と言葉を選んで伝えたそうです。「丸刈り禁止」では「長髪禁止」の裏返しでしかありません。それに、知名度のある強豪校ですから、成績低迷が続けば髪を伸ばしたことを原因として指摘されかねません。それに、生活の乱れがあれば「やはり」と言われることも想像されます。そうならないよう、より野球と向き合わなければならないでしょうし、本業の学業についてもより一層励むようにしなければなりません。実際に、髪を伸ばし始めてから、みんな今までよりも授業態度が良くなったようになり、毎週月曜日の始業前に野球部員全員で行う校内清掃も意識して丁寧に行うようになったそうです。
島田監督は「丸刈りなら、ひと目で野球部と分かる。そして好意的に見られてきた。これからは外見では野球部だとは分からない。今まで以上にしっかりした行動をすることで『さすが野球部』と思ってもらわなければならない」と言っています。
強豪校の挑戦は高校野球界全体に影響する1つの流れになって行くでしょうか。