NHKで記者会見が生中継されるなど異例なこととなっている、日本大アメリカンフットボール部の問題。一向に収まる気配はなく、さらに問題は日本大にとって窮地に追い込まれてしまっているように思います。
これほどまで大きな社会問題となれば、一大学の一体育会系クラブ部の対応だけでは対応できなくなってきていると思います。大学のトップ、経営陣が不祥事として受け止めて、真相究明、説明責任、再発防止などの難題に取り組まなければならないでしょう。
しかし、今のところ日本大にはその様子はなさそうで、5月23日に内田正人前アメフト部監督、5月25日に大塚吉兵衛学長が会見を開いただけです。今さらながら日本大側の対応が後手後手であり、今回起こした事件そのものももちろん問題ですが、内容もさらに批判を集めてしまい、大学側の対応についても大きな非難が集まっています。
さて、すっかり忘れ去られてしまっていますが、この問題の前には女子レスリング問題があり、あの強烈なインパクトを残した学長さんの記者会見がありましたが、このような不祥事に対して、大学側の対応が注目されます。
ここに大学の危機管理についてのまとめがありました。
<ケース1>
2003年5月。大学サークルの学生が女子学生に暴行。サークルの首謀者(当時在学生)は逮捕。
今回と同じぐらい、それ以上、連日、テレビや新聞でも報じられた事件です。大学側は会見を開き、副総長3人が謝罪しています。しかし、総長は欠席しました。このとき、近くの女子大学職員が怒って「総長が謝罪すべきだろう。以前、スーパーフリーの学生がナンパしにきて、早稲田に文句を言ったが対応してくれなかった。この責任は重い」と話していました。
このときの副総長たちの対応は、いやいや矢面に立たされている感がにじみ出ており、被害者の女性に対する謝罪、再発防止の提示など十分ではなく、当事者意識が薄かったと見えたようです。
<ケース2>
2003年8月。大学四年生が広島平和公園の折り鶴に放火し、器物損壊容疑で逮捕。大学側の対応は早く、学生の逮捕当日には会見を開き、副学長が「怒りや悲しみを新たにする時期に、言語道断というしかない。心からおわびします」と謝罪しています。また、翌日には学長が広島市長を訪問し、謝罪しています。
学生や教職員の不祥事に対して、大学トップが公の場で謝罪するようになったのは、この事件が大きなきっかけなっているようです。
<ケース3>
2008年5月。学生が大麻不法所持で逮捕。
事件後すぐ大学のホームページで理事長、学長の連名で「本学としては誠に痛恨の極みであり、関係各位に多大なご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。本学としては、過去の同様の事件を反省材料に、これまで再発防止に努めてまいりましたが、今回の事件を惹起したことにより、根本からこれまでの取組を見直さざるを得ない状況となりました。早急に抜本的な対応を講じ、二度とこのような不祥事が起こらないように、全学を挙げて取り組む所存であります」と声明が出ました。
大学は相当な危機意識を持っており、事件後すぐに大阪府警と協力して「麻薬犯罪撲滅」のために教育、キャンペーンを文字どおり「全学を挙げて」を行いました。
再発防止策の徹底された、成功例と言われています。
<ケース4>
2016年10月。大学内の研究会が同校の女子学生を集団で暴行。
この件で大学は会見を開いていません。当時の塾長は何も声明を出さず、HPで「捜査権限を有しない大学の調査には一定の限界があります。一部報道にあるような違法行為に関しては、捜査権限のある警察等において解明されるべきであると考えます。大学としては自ら事件性を確認できない事案を公表することはできず、したがって、一部報道されているような情報の「隠蔽」の意図も事実もありません」と声明を出しただけでした。
このとき、大学は真相を究明しようとしたようですが、「限界」を理由に学内の調査をやめてしまいました。このことにより、今後の対応策を講じられなかった、失敗例とされています。
<ケース5>
2016年11月。学生が強制わいせつ。
大学は会見を開いていませんが、HPで「当該学生らの行為は、被害にあわれた女性に大きな苦痛を与え、その尊厳を深く傷つけるものであり、決して許されるものではありません。東京大学のサークルのイベントと称する場で、高い倫理観と社会的常識をそなえているべき本学の学生が、かかる反社会的で恥ずべき行為を集団で行なったことを、総長としてまことに残念に思います」と総長のコメントが発表されました。
ただし、謝罪はしていません。
<ケース6>
2016年11月。学生と職員が女性に暴行。
筆頭理事、医学部長が会見で謝罪しました。そして、学長がHPで「当該職員の行った行為は、ひととして、また医師としてあってはならないものであり、厳しく処分をするべく直ちに懲戒委員会を立ち上げました。被害にあわれた方を深く傷つけたこと、心よりお詫び申し上げます」と謝罪声明を出しています。
<ケース7>
2017年に2014年当時のアカハラが発覚。
学長がHPで「指導学生及び研究室OBに対し、不適切ないし悪質な言動を繰り返し、当該学生らの尊厳ないしこれに関わる人格権を侵害し、また、複数の学生がこれらの一連の行為を起因とする精神疾患を発症し、卒業後の就労にも多大な支障が生じた、アカデミック・ハラスメントまたはこれに類する人権侵害に該当する行為を行っていたことが判明しました。(略)教育に携わる本学の大学教員がこのような行為をしたことは誠に遺憾であり、関係者の皆様には心よりお詫び申し上げます」と教員の言動について、具体的に被害状況を示した上で謝罪しています。
事例を挙げれば、キリがないのですが、謝罪していれば、謝罪しているとは思えない内容もあります。そもそも、自分のところの学生が事件を起こさせないような教育が出来ていないこと、いくら個人で起こしたことだとは言っても、大学が誠実さを示していないことから、教育機関として如何なものかと思います。これを判断することが出来るのが学長、経営陣、広報責任者であり、それこそ大学の姿勢だと思います。
約7万人と日本の大学全体で第1位である学生の今後を守らなければならないことを、どう考えているのでしょう。学生よりも守らなければならないものがあるのでしょうか。
過去、大規模大学の場合には不祥事が起こっても翌年の志願者数が減少することは、ほとんどなかったようですが、さすがに今回の日本大のブランド力は下落してしまったと思います。
もはや自浄作用も利かなくなってしまったようなので、いっそのこと第三者による調査委員会を作り、速やかに真相究明に努めることが、日本大が今できる最大の誠意といったところでしょう。ここまで来ては日本大側が何を言っても信じてもらえないかも知れませんから。