【いにしえの小話「インチキの名人」 ~ 侮り難き卑屈さを巡る断章の巻】
今は昔
大道芸人の仲間が“妙案”を思い付いた
見物人に混じり、まるでお客のように見せかけて
品物を買いながら、巧みにその良さを吹聴する
すると多くの見物人は、つられて購買心をそそられ
粗悪な品物を競って買うではないか
■サクラという隠語は、
「馴れ合い」のインチキ、カラクリのことを指す。
その語源は策略(サクリャク)がなまって
サクラとなったともいわれている。
インチキの類いは元々、
バクチ打ちや盗人など「裏社会」で使われていた隠語である。
ヒトの眼を盗みカネを巻き上げるのを生業にする輩の専売特許。
むろん特殊詐欺もその流れで、姿かたちを変え巧妙を極める。
いつの間にやらデタラメやイカサマも「表社会」で使う言葉になった。
しかし、こちらのだましの手法はといえば、
絵にかいたような幼稚なウソが主流である。
滑稽であり、笑止であり、卑屈である。
サクラスキャンダルは既に論理破綻しているのだが、
なかなかに収束の気配がなく、長期戦の様相である。
だが――
卑屈さを
責めたりなどせぬがよい
世間が何と言おうとも
卑屈さは侮りがたい強みだぞ (ゲーテ「西東詩集」)
◇
インチキの名人という小話もある。
ある新婚の若夫婦のところに
芝居の切符が入った差出人不明の手紙が届いた
「私が誰だか、当ててみてください」
とだけ書いてあった
二人はさんざん考えたが、さっぱり見当がつかない
しかし、せっかくの好意を無駄にしては申し訳ない、と
芝居見物に出かけた
さて、帰ってみると、家の中のめぼしいものは
すっかり盗まれている
驚いて机の上を見ると、今朝の手紙と同じ筆跡で
「私が何者であるか、はっきりと分ったでしょう」
▲ ん? これはもしかして噂の招待券であるな タダより高いものはなし ご用心あれ!
法律も大物だけは素通りし 詠み人知らず
いつの時代も
善良なる小市民はお人好しのカモであろうか?
よろしくお付き合いください。
ありがとうございます。