弥生賞ディープインパクト記念では、武豊騎手騎乗のサトノフラッグが圧勝しました。昨年も道悪でしたが、今年も「重」のコンディション。
道悪の弥生賞というと思い出すのが「幻の三冠馬」と言われた、アグネスタキオンです。
[新馬戦 偉大な兄]
父サンデーサイレンス 母アグネスフローラ(母の父ロイヤルスキー)
栗東・長浜博之厩舎 牡 栗毛
アグネスタキオンは2000年12月のデビュー前から注目を集める立場の馬でした。というのも、全兄がその年のダービー馬・アグネスフライト。武豊騎手の兄弟子としても知られる名手・河内洋騎手(現調教師)に初のダービー制覇をもたらしたバリバリのG1ホースでした。
しかし、アグネスタキオンは新馬戦で3番人気という評価に甘んじます。
1番人気はダービー馬・フサイチコンコルドを兄に持つ、ボーンキング。2番人気は名牝・ロジータの仔、リブロードキャストでした。その他にも良血馬・高額馬が集結した、今でいう「伝説の新馬戦」と言って差し支えないメンバーが揃っていました。
兄フライトは2月という遅いデビューから、5月の京都新聞杯を制してダービーの頂点まで駆け上がった馬で、タキオンもデビュー前の調教のペースはそれほど上がらず、「先々は走ってくるだろうが、現時点では兄ほどでは・・・」という雰囲気もあったように思います。
ところがアグネスタキオンはこの新馬戦で2着に0.6の差をつけ圧勝します。超スローペースのものではありましたが、上り3Fは33秒台と、兄を始めとしたサンデーサイレンス産駒らしい切れ味で他馬を圧倒しました。
[わずか2戦目にして「伝説」の誕生を予感させた]
新馬戦での勝ち方から、一気に注目の存在となったアグネスタキオンは、数々の名馬が走った出世レースとして名高いラジオたんぱ杯3歳Sに向かいました。
ここで1番人気となったのは、新馬、エリカ賞と2000mを2戦連続レコード勝ちしてきたクロフネです。外国産馬であったクロフネは、翌年の日本ダービーが初めて外国産馬に開放されることに合わせ、「開放初年のダービーを勝ってほしい」という願いで名付けられた馬でした。
アグネスタキオンが2番人気で、既に重賞を勝っていたジャングルポケットが3番人気となりました。
↑4コーナーで抜け出そうとするクロフネを、軽く仕掛けただけであっという間に突き放す瞬発力に注目です。
アグネスタキオンは1戦1勝の身であり、スローの経験しかないことが不安視されましたが、このメンバーを相手に圧勝。クロフネがエリカ賞で記録したレコードを0.4更新するおまけまで付けました。
「これはとんでもない大物が現れた」
このレースを見ていた多くの競馬ファンはそう思ったことでしょう。
[敵は身内にあり?]
クロフネ、ジャングルポケットという二頭の有力候補を子ども扱いしたアグネスタキオンのレースぶりを見て、「三冠」という言葉がささやかれるようになりました。
1994年にナリタブライアンが達成して以来、出現していなかった三冠馬の誕生を予感するファンは少なからずいました。
春を迎え、アグネスタキオンはクラシックへのステップとして弥生賞に向かいますが、回避馬が続出してわずか8頭でのレースとなりました。不良馬場だけが唯一の不安要素と考えられましたが、問題にせず圧勝。新馬戦で下した相手ではありましたが、京成杯で重賞制覇していたボーンキングに5馬身差をつけました。
そこに、新馬から4戦4勝できさらぎ賞、スプリングSを連勝し、クラシック戦線に名乗りを上げた馬がいました。
アグネスゴールドです。タキオンと同馬主、同厩舎、同騎手で、サンデーサイレンス産駒というところまで同じでした。タキオンのライバルが「身内」から現れたのです。
アグネスゴールドもレースセンスのある強い馬でしたが、実際のところはタキオンほどのインパクトは無かったように思います。「河内はタキオンを選ぶだろうな」と思っていましたが、残念ながらアグネスゴールドはスプリングSの後に骨折が判明し、直接対決は実現しませんでした。
[幻の三冠馬]
アグネスタキオンは盤石の競馬で皐月賞も圧勝。「まず一冠!」という実況はもちろん、兄アグネスフライトとのダービー兄弟制覇、さらには「三冠馬」の誕生への期待がこもったものだったはずです。
ところがダービーまで1ヶ月を切った頃、衝撃のニュースが舞い込みます。
アグネスタキオン、屈腱炎。
ダービー制覇、三冠馬誕生の夢は消滅することになります。
結局アグネスタキオンは放牧に出され、そのまま引退、種牡馬入りすることが決まりました。
ラジオたんぱ杯でアグネスタキオンに敗れたクロフネはNHKマイルCを勝ち、秋にはダートで史上最強クラスのパフォーマンスを見せました。
皐月賞で3着だったジャングルポケットが日本ダービーを勝ち、秋にはジャパンCを制覇。
皐月賞2着のダンツフレームがダービー2着となり、後に宝塚記念でG1制覇。
弥生賞で4着だったマンハッタンカフェも菊花賞などG1を3勝。
彼らの活躍により、アグネスタキオンの評価はさらに高まっていきます。
「タキオン」とは、光速を超える速さの仮想粒子。
まさに光のような速さの競走馬人生を歩んだアグネスタキオンは、「幻の三冠馬」と呼ばれました。