たった500gで人類を滅亡させる猛毒「ボツリヌス」が潜む食品とは?
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第14回 ボツリヌス
ボツリヌスだよ全員集合!
テタヌストキシン(破傷風毒素)と同じくらい致死量が少ない猛毒にボツリヌストキシンがある。
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、破傷風菌と同じクロストリジウム属に属する禁なので、破傷風毒素とは親戚関係にあるということになります。無酸素が大好きで“酸素大嫌い”の「偏性嫌気性菌」です。
当然、生み出す毒素も凶悪な神経毒ですが、脳の中枢神経系まで移動したりはせず、神経終末で止まって神経刺激を伝える神経伝達物質である「アセチルコリン」の放出を止めてしまうという働きがあります。
■500gで人類皆殺しレベルの猛毒 もちろん毒性はテタヌストキシンの親戚だけあって上から数えた方が早いくらいの世界屈指の猛毒で、1mgでマウス20万匹。500gもあれば世界中の人間を皆殺しにすることだって理論上可能なウルトラ猛毒です。致死量的にはテタヌストキシンとどっこいどっこいです。
ボツリヌス菌自体は、そこら中にいる偏性嫌気性細菌なのですが、破傷風のように傷口からの感染がメインではなく(起こることもある)もっぱら食中毒菌としての知名度が高い細菌です。
【辛子レンコン事件】
1984年。辛子レンコン事件というものがありました。真空パウチ(無酸素パラダイス)されたカラシレンコンにボツリヌス菌が入り込んで大量生産され、36人が中毒を起こし、11人が死亡するという大事件です。
しかし、ボツリヌス菌に本当に気をつけないといけないのは「ハムやソーセージ」といった保存肉の類。
■保存肉で犠牲者を出してきた過去 我々人類の保存肉開発の歴史の裏では、この菌によって何人が命を失ったのか分からないくらい大量に死にまくり、その中で、ある種の岩塩を使うことでボツリヌス菌を抑制する方法を発見しました。
それが、「岩塩中に含まれる硝酸イオン」で、強い酸化力(酸素を与える力がある)をもつため、酸素嫌いのボツリヌス菌にとっては大敵となる化学物質なのです。その硝酸塩の有効性が科学的に調べられ、現在はより安全性の高い、亜硝酸ナトリウムという形でハムやソーセージの保存料として使われてるわけです。
つまりは添加物として発がん性があるだの、青酸カリに匹敵する猛毒だの言われて、迫害の限りを受けている亜硝酸ナトリウムは、影で致死性の細菌の繁殖を食い止めてくれている影の功労者と言えます。迫害されて嫌われても、みんなを守り続ける化学物質なんて、ちょっとバットマンみたいでカッコイイじゃないですか(笑)
もちろん、ADI(添加物などの一日摂取許容量)に準拠しているので、恩赦こそあれ毒性はまずありません(食べ過ぎるとハム・ソーセージの亜硝酸塩の毒で死ぬ前に、塩分過多で死にます)
また、意外にもボツリヌス菌は蜂蜜の中に結構な割合で潜んでおり、これが乳児ボツリヌス症を起こす原因になることがあります。なので、1才未満の赤ちゃんには蜂蜜を食べさせてはいけないことになっているのです。
これは、少量含まれるボツリヌス菌の芽胞(菌の種のようなもの)が、赤ん坊の腸内は無菌がゆえに、発芽して毒素を作れてしまう(それ以外の年齢なら常在する腸内細菌に食い殺されてしまうので無害)ということです。