なぜ「タダ同然」で食べられるのか? 日本の未来を救う2つの定食屋
つらいことのあった日も、家族みんなで食卓を囲み他愛のない話をしているうちに自然と笑顔になっていたー。かつての日本はそんな日常が当たり前でした。しかし、独身、共働き、シングルマザー(ファザー)などが急増し貧困化が進む日本で、今までの「普通」は失われつつあります。「テレビ東京『カンブリア宮殿』
(mine)」は、放送内容を読むだけで分かるようにテキスト化して配信。「誰かと一緒に美味しいものを食べる時間」を守るべく奮闘する2人の女性が思い描く理想の未来とは?
絶品定食がタダ?~ユニークすぎる都心の食堂外食激戦区の東京・神保町。あるビルの地下に気になる店がある。
店の入り口の脇には「ただめし券」なるものが貼ってある。やってきた若者がくい入るように見つめ、1枚剥がして中に入っていった。
席に着くと、何も注文していないのにお盆が出てきた。定食だ。メインのおかずは肉厚のタラを使った黒酢あんかけ。若者はお腹が減っていたのかモリモリと平らげていく。そして食べ終わると、先ほど剥がした券の裏に何やら書き込み始めた。
「給料日当日ですが、もらえるのは夕方なので助かりました。ありがとうございます!」
店の名前は未来食堂。「ただめし券」を使えば誰でもタダで定食が食べられる不思議な店だ。実際に取材中、何人もの人たちがただ飯を食べていった。経営は大丈夫なのだろうか。
未来食堂はホームページで毎月の収支を公開している。売上げから原価を引いた粗利は80万円前後。毎月しっかり利益を出している。オープンして2年、未来食堂はただ飯を振る舞いながら黒字を出し続けていた。
未来食堂のメニューは900円の日替わり定食、一品だけ。この日は隠し味に醤油を入れた和風デミグラスソースの煮込みハンバーグ。家庭的な料理の小鉢もついてくる。
入口の向こうからお客がやってくるのを見た店主の小林せかい(32)は、すぐさま盛り付けを指示。メニューが日替わり一品だけなので、あっという間に出せる。このスピードが大きな武器。ランチタイムは多い時で7回転。高い回転率で利益を出している。
「お客様のオーダーを取る時間が節約できるし、食材のロスも少なくなります」(小林)
未来食堂には他にも不思議な光景が。食事を終えた「自分も飲食店をやっている」と言う男性客。するといきなり頭に手ぬぐいを巻いて厨房に入っていった。始めたのは皿洗いのお手伝いだ。別の女性も食事を終えると厨房に立った。彼女の本職は歯科医。アルバイトではなくお手伝い。「賃金が発生しているわけではありません」と言う。
実はこれも未来食堂の大きな特徴の一つ、「まかない」と呼ばれるシステムだ。お客は店の仕事を50分間手伝うと、一食タダになるチケットがもらえる。これが先ほどの「ただめし券」。この券は自分で使って食べてもいいが、入り口の脇のボードに貼り付けてもいい。「困っている誰か」にプレゼントできるのだ。
実際に使われた「ただめし券」には、「お財布にお金が入ってなかったです。未来食堂でよかった、まかないしにきます」「3日食事してなかったので、すごい食べました。ありがとうございます」といったメッセージが。今、困っている人を受け入れる食堂を作りたい。これが未来食堂の原点だ。