なぜ、フェイクニュースは拡散するのか? 科学者が見た「装置としてのSNS」
なぜ、偽情報や誤情報は拡散していくのかーー?
NPO団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」が3月10日、「フェイクニュース現象の本質は何か」と題したシンポジウムを開いた。
シンポジウムには、『フェイクニュースを科学する』の著書を持つ、名古屋大大学院講師・笹原和俊氏(計算社会科学)が登壇。
笹原氏は、アメリカでの研究結果を紹介しながら、「フェイクニュースは時に人の命を奪うこともあり、看過できないもの」「問題はSNSが情報拡散のための装置として機能してしまうことにあります」と、警鐘を鳴らした。
フェイクニュースにある「グラデーション」そもそも、フェイクニュース問題が注目されるようになったのは、2016年のアメリカ大統領選だった。
BuzzFeed Newsの調査では、大統領選の最後の3カ月間、Facebook上では選挙に関して、主要メディアのニュースよりも、フェイクニュースの方が高いエンゲージメントを獲得していたことが判明している。
笹原氏はこの調査結果に触れながら「トランプ大統領を誕生させることに寄与したかは意見が分かれる一方で、少なくとも社会を混乱させた」と指摘した。笹原氏は、フェイクニュースを程度に応じて分類する「グラデーション」を紹介。フェイクニュース対策に取り組む「ファースト・ドラフト・ニュース」のクレア・ウォードル氏が示した7つの類型だ。
風刺・パロディ:害を与える意図はないが、騙される可能性がある
誤った関連付け:見出し、画像、キャプションなどが内容と合っていない
ミスリーディング:誤解を与えるような情報の使い方
偽の文脈:正しい内容が間違った文脈で使われる
偽装:正しい情報源が偽装されている
操作:騙す目的で情報や画像が操作されている
捏造:騙したり害を与えるために作られた100%嘘の内容
拡散の8割を担うのは…?
BuzzFeed News
米大統領選におけるBuzzFeed Newsの調査。黒が主要メディアのニュース、赤が偽ニュース。縦軸はエンゲージメントの数。横軸は時間。最後の3カ月は偽ニュースが逆転した。
笹原氏は「フェイクニュースという言葉で全てまとめるべきではない」としながら、アメリカの先行研究を紹介した。
特筆すべきはフェイクニュースの拡散速度だ。偽情報や誤情報は、そうでない情報と比べ、「速く、遠くまで伝わる性質」があることもわかっているという。拡散を加速させるのは「扇情的」な言葉だ。
「単に道徳的な言葉よりも、道徳感情的な言葉であるほうが、その情報が拡散されやすい傾向にあります。扇情的であればあるほど、感情が伝染するということです」
また、その共有の80%を全体の0.1%が担っているという研究結果もあるという。
「中でも高齢者、極右が偽ニュースを共有しやすいという結果が出ている。たくさん拡散している一方で、加担者はごく少数なのかもしれません」
拡散の背景にあるもの偽情報や誤情報が広がる背景には様々な要因があると、笹原氏は説明する。
そもそも、直感や先入観を元に物事を意識決定しようとする人の「認知バイアス」も関わっているという。また、多くのニュースやSNS通知など、情報過多によって人が適切な意思決定ができなくなる「情報オーバーロード」もある。
一方で技術の発展も影響を及ぼしている。SNSを通じて同じ意見の人々とつながり、似たような見方ばかりが増幅されてゆく「エコーチェンバー」や、パーソナライゼーション技術の発展により、興味関心がある情報ばかりに触れやすくなる「フィルターバブル」だ。こうした多くの要素が絡まり、情報が拡散すると、それは社会の分断にも繋がっていく。笹原氏は、「バックファイアー」と呼ばれる現象にも言及した。
「自分とは逆のイデオロギーの情報に接してもらうと、より固執するようになるという研究結果が出ています。訂正情報の拡散に影響を与える効果です」
アメリカの研究結果によると、自らと違う意見にある一定期間触れると、その意見に感化されるわけではなく、自らの意見により固執するようになることが明らかになった。
保守系が顕著であったものの、政治的立ち位置関わらず同じ傾向が見られたという。
社会に分断が生まれる前に
笹原氏はいう。
「いとも簡単に社会は分断してしまう。日本はアメリカほどの政治的分断はないが、ヘイトをはじめとした対立構造もあり、同様のことが起こりうる。こうした研究から学ぶことはたくさんあるはずです」
そのうえで、こうした情報が「拡散する仕組み」に問題点があると指摘。
「フェイクニュースは、情報生態系の問題です。コンテンツの問題とだけするのではなく、ネットワーク全体の問題として取り扱う必要がある」
個人でできることと、プラットフォームができることがある、と述べた。
「コンテンツひとつひとつを規制することは行き過ぎだが、メールのスパムフィルターと同じような”フェイクフィルタ”があっても良いのではないでしょうか」
また、メディアリテラシーや社会基盤としてのファクトチェックも重要だという。
「私自身、正しくフェイクニュースを怖がるために、なぜこうした情報が広がっていくのか、科学者として伝えていく活動を続けていきたいと思っています
なぜ、偽情報や誤情報は拡散していくのかーー?
NPO団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」が3月10日、「フェイクニュース現象の本質は何か」と題したシンポジウムを開いた。
シンポジウムには、『フェイクニュースを科学する』の著書を持つ、名古屋大大学院講師・笹原和俊氏(計算社会科学)が登壇。
笹原氏は、アメリカでの研究結果を紹介しながら、「フェイクニュースは時に人の命を奪うこともあり、看過できないもの」「問題はSNSが情報拡散のための装置として機能してしまうことにあります」と、警鐘を鳴らした。
フェイクニュースにある「グラデーション」そもそも、フェイクニュース問題が注目されるようになったのは、2016年のアメリカ大統領選だった。
BuzzFeed Newsの調査では、大統領選の最後の3カ月間、Facebook上では選挙に関して、主要メディアのニュースよりも、フェイクニュースの方が高いエンゲージメントを獲得していたことが判明している。
笹原氏はこの調査結果に触れながら「トランプ大統領を誕生させることに寄与したかは意見が分かれる一方で、少なくとも社会を混乱させた」と指摘した。笹原氏は、フェイクニュースを程度に応じて分類する「グラデーション」を紹介。フェイクニュース対策に取り組む「ファースト・ドラフト・ニュース」のクレア・ウォードル氏が示した7つの類型だ。
風刺・パロディ:害を与える意図はないが、騙される可能性がある
誤った関連付け:見出し、画像、キャプションなどが内容と合っていない
ミスリーディング:誤解を与えるような情報の使い方
偽の文脈:正しい内容が間違った文脈で使われる
偽装:正しい情報源が偽装されている
操作:騙す目的で情報や画像が操作されている
捏造:騙したり害を与えるために作られた100%嘘の内容
拡散の8割を担うのは…?
BuzzFeed News
米大統領選におけるBuzzFeed Newsの調査。黒が主要メディアのニュース、赤が偽ニュース。縦軸はエンゲージメントの数。横軸は時間。最後の3カ月は偽ニュースが逆転した。
笹原氏は「フェイクニュースという言葉で全てまとめるべきではない」としながら、アメリカの先行研究を紹介した。
特筆すべきはフェイクニュースの拡散速度だ。偽情報や誤情報は、そうでない情報と比べ、「速く、遠くまで伝わる性質」があることもわかっているという。拡散を加速させるのは「扇情的」な言葉だ。
「単に道徳的な言葉よりも、道徳感情的な言葉であるほうが、その情報が拡散されやすい傾向にあります。扇情的であればあるほど、感情が伝染するということです」
また、その共有の80%を全体の0.1%が担っているという研究結果もあるという。
「中でも高齢者、極右が偽ニュースを共有しやすいという結果が出ている。たくさん拡散している一方で、加担者はごく少数なのかもしれません」
拡散の背景にあるもの偽情報や誤情報が広がる背景には様々な要因があると、笹原氏は説明する。
そもそも、直感や先入観を元に物事を意識決定しようとする人の「認知バイアス」も関わっているという。また、多くのニュースやSNS通知など、情報過多によって人が適切な意思決定ができなくなる「情報オーバーロード」もある。
一方で技術の発展も影響を及ぼしている。SNSを通じて同じ意見の人々とつながり、似たような見方ばかりが増幅されてゆく「エコーチェンバー」や、パーソナライゼーション技術の発展により、興味関心がある情報ばかりに触れやすくなる「フィルターバブル」だ。こうした多くの要素が絡まり、情報が拡散すると、それは社会の分断にも繋がっていく。笹原氏は、「バックファイアー」と呼ばれる現象にも言及した。
「自分とは逆のイデオロギーの情報に接してもらうと、より固執するようになるという研究結果が出ています。訂正情報の拡散に影響を与える効果です」
アメリカの研究結果によると、自らと違う意見にある一定期間触れると、その意見に感化されるわけではなく、自らの意見により固執するようになることが明らかになった。
保守系が顕著であったものの、政治的立ち位置関わらず同じ傾向が見られたという。
社会に分断が生まれる前に
笹原氏はいう。
「いとも簡単に社会は分断してしまう。日本はアメリカほどの政治的分断はないが、ヘイトをはじめとした対立構造もあり、同様のことが起こりうる。こうした研究から学ぶことはたくさんあるはずです」
そのうえで、こうした情報が「拡散する仕組み」に問題点があると指摘。
「フェイクニュースは、情報生態系の問題です。コンテンツの問題とだけするのではなく、ネットワーク全体の問題として取り扱う必要がある」
個人でできることと、プラットフォームができることがある、と述べた。
「コンテンツひとつひとつを規制することは行き過ぎだが、メールのスパムフィルターと同じような”フェイクフィルタ”があっても良いのではないでしょうか」
また、メディアリテラシーや社会基盤としてのファクトチェックも重要だという。
「私自身、正しくフェイクニュースを怖がるために、なぜこうした情報が広がっていくのか、科学者として伝えていく活動を続けていきたいと思っています