ワークマンの国内店舗数がユニクロ超え、FCオーナーに希望者殺到の理由国内店舗数が839店(2019年4月現在)と“ユニクロ超え“を果たし、25年には1000店の目標を掲げるワークマン。出店増を支えているのが、店舗の約9割に当たるフランチャイズ(FC)契約店だ。FC契約の初回継続率はほぼ100%。店の売り上げ1億2000万円(平均)の約1割がオーナーの収入になるといい、「ホワイト」フランチャイズだとオーナー希望者が殺到している。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
>>前回記事『ワークマンが大ブレイク、低価格高品質でも利益が出せる3つの秘訣』から読む
● 国内店舗数はユニクロ超え 9割がフランチャイズ
「先に脱サラした同僚から、『ワークマン、いいぞ』と誘われて――」。
そう話すのは、ワークマン足立尾久橋通り店の店長を務める武藤等さんだ。
ドラッグストアの社員として働いていた武藤さんは、50歳での脱サラを考えていたころ、元同僚から、「ワークマンのオーナーをやらないか」と声をかけられた。話を聞くと、新店の立ち上げからではなく、既存店にオーナーとして入る形だった。
武藤さんは衣料品を取り扱った経験がないため、不安はあった。ただ先にオーナーになった元同僚は、武藤さんから見ると「何事も続かないタイプ」。「あいつでもできるんだったら」と、2012年にワークマンオーナーの道を選んだ。
フランチャイズ(FC)契約をめぐっては、24時間営業など、コンビニの加盟店オーナーの負担が世間の注目を集めている。そして、ワークマンの国内店舗数839店(2019年4月時点)の約9割が、FC契約店である。
ワークマンとコンビニの違いは、営業時間が短いこと、そして定休日があることだ。職人向けの商品が多いため、ワークマンの開店は朝7時からと比較的早いが、夜は20時に閉店する。レジ締めの作業を昼間に行うこともホワイト要因の一つ。閉店時のレジ締め作業がなく、「外に出している商品も少ないし、閉店後5分で家に帰れます」と武藤さんは笑う。これはワークマンの本社が群馬にあり、周囲に夜間金庫がなかったことの名残だというが、おかげで店長は残業とは無縁だ。その働きやすさから、店長の4分の1が女性だという。
● 口コミでオーナーになったケースが約3割
ワークマンのオーナーへの道は大きく2通りある。オーナーを募集している店舗を探して面接を受けるパターンと、現オーナーからの紹介や親族への引き継ぎなどの口コミだ。後者の比率は約3割だという。
武藤さんのように元同僚から声がかかることも少なくなく、ある会社の脱サラ組が紹介に紹介を重ねた結果、その会社名を冠した「○○村」と呼ばれている地域もあるという。また、約6割のオーナーが小売業未経験者だ。
オーナーになるには、個人契約で一人1店舗。夫婦での登録が原則だ。これは店のリピーターを獲得するためであり、夫婦だと「夫のファン」「妻のファン」と顧客を分散できるからだという。職人がオーナーになることはほとんどないため、店に並んでいる商品がどういう職種の人に使われ、どういう商品が良いものなのか、今現場ではどんなニーズがあるのか、といったことは客から教わることになる。
例えば、建設現場ではニッカポッカを履くイメージが強いかもしれないが、大手ゼネコンの現場では、“ニッカポッカ禁止令”が出ているところも多い。そうした現場が近くにあると客から聞けば、それに合った商品を並べられる。
「今年はハーネスをたくさん買っていくお客さんがいて、理由を聞くと、法改正でフルハーネス型の安全帯が義務付けられた現場があるとのことでした。うちでは1万5800円という高価格帯の商品なので、そうした情報は本当に貴重です」と武藤さんは話す。
職人向けの商売は、昔ながらの個人商店のような密なコミュニケーションが必要となる。客がつけば常連化しやすく、店の常連客が「いいの選んでやって」と現場に入ったばかりの新人を連れてくるようになる。
最近は長年雇ったパート・アルバイト社員へ代替わりするケースも増えている。オーナーの最後の契約更新は65歳で、その後継者として店舗のオーナーを本部が探すことになるのだが、そのまま勤めていたパート社員に譲る場合は、「パート・アルバイト独立支援制度」として、加盟時の必要資金が減額されるという。
コンビニFCの代表格であるセブン-イレブンの創業は1973年。ワークマンが創業した1982年当時は「フランチャイズブーム」の時期であった。しかし、ワークマンの場合、もともといせや(現・ベイシア)の衣料部門が、大阪で売れている職人向け衣料ショップのビジネスモデルを真似して作った店舗からスタートしており、コンビニとは出自が異なる。社内の人間が加盟店になっていった経緯があり、「本部」「加盟店」というより、今でも「のれん分け」の感覚に近い。
ワークマンのFCの仕組みには、2つの大きな特徴がある。
まず、新規店舗は店舗用地の取得からオープンまで全て本部で行う。コンビニでもよくある、本部が土地・建物を用意するというパターンだ。開店してからオーナーが決まるまでは本部で運営する。テリトリー権(FC本部が加盟店に対して、その営業地域を特定する権利)はないものの、「人口10万人に1店舗と決めています」とフランチャイズの責任者である加盟店推進部の八田博史部長は言い切る。
もう一つの特徴が、契約後1年は店舗の年間売上高が6300万円に達するまで、売上高にかかわらず“固定給”がオーナーに支払われる「Bタイプ」という契約形態がある点だ。通常のAタイプの契約は、粗利益の60%を本部に上納する。Bタイプの場合、粗利益の如何にかかわらず、月50万円と歩合分が本部からオーナーに支払われる。小売業の未経験者が多くても何とかなるのは、この仕組みがあるためだ。
年間売り上げが6300万円を超えると、そこからは利益連動方式になる。現在1店舗あたりの売上高は約1億2000万円。オーナーの懐に入るのはだいたい1200万円と推定されている。
Aタイプは契約時の必要資金として、加盟金、開店手数料、研修費、保証金、開店時出資金合わせて350万円。Bタイプは開店手数料、研修費、保証金のみで150万円が必要になる。契約期間は6年間で、オーナーの年齢が65歳になるまで更新できる。再加盟料は200万円かかるが、「1回目の更新は、病気になった場合を除けばほぼ100%。脱サラ組が多いのでオーナーの平均加盟期間は10年だが、20~30年契約しているオーナーもたくさんいる」(八田部長)。
なかなか“おいしい”話のようだが、実際にオーナーになるにはハードルがいくつもある。
● オーナー選びに面接は6回 親族でも落ちるケースも
まず、自分で店舗を建てることができないため、オーナーを募集している店舗しか応募できない。土地勘がない場所では難しく、Iターンはお断りだ。1回目の面接もある程度選考した相手としか会わない。
次に、オーナーの息子など親族の場合でも、本部がダメだと思えば平気で面接で落とす。オーナー次第で店の売り上げが大幅に変わるため、オーナーを選ぶまでに6回もの面接を本部の人間が行う。いい人が見つからなければ店舗は本部で運営し続けるため、いつまでたっても直営店のままになっている店舗もあるようだ。
もちろん、ワークマンのFCがずっとバラ色だったというわけではない。ワークマンが一番苦しかった2009年のリーマンショックのころは、オーナーたちも売り上げが落ちて苦労した。ただ、夫婦経営が主体で、職人の「顔なじみ」の店になっていたため、売れ行きは落ちても顧客は離れなかった。
その時期に、他社を駆逐する低価格帯の維持と、PBのヒット商品を本部が作ったことで、少しずつ客足が戻ってきた。最近はワークマンプラスの好調で、一般客まで来店するようになり、手持ち無沙汰の時間も減った。苦労を共にしたことがかえってオーナーと本部の関係を良好にしたという。
店同士が同じ商圏にないこともあり、近隣オーナーとも友好的な関係を築きやすい。店舗の取材中も、「大量の注文を受けた商品があるから、在庫があれば回してほしい」という電話が他店から入った。こうしたことが日本中の店で行われている。
また、本部から派遣されるSV(スーパーバイザー)も強力な助っ人だ。SVといえば本部からの指導役とみなされやすいが、どちらかというと、とにかく商品を「売り切る」ための部隊であり、オーナーからの信頼は厚い。「担当地区のレイアウトをすべて把握しています。どこでどの商品が売れるかわかるので、ある店でダブついている商品があれば、『この商品はあの店なら売れる』とすぐ判断して回していきます」(スーパーバイズ部 東京・神奈川エリア部長代理 島健太郎氏)。オーナー同士での情報交換も盛んなため、SVも気が抜けず、良い緊張関係にあるという。
そうした信頼関係があっても、本部の方針の変更は、オーナーにとっては不安なものだ。
「ワークマンプラス」というカジュアル路線の新業態店舗には、一部オーナーから不安の声が上がった。しかし、結果的には「ワークマンプラス」以外の店舗に一般客が流れることで、既存店の売り上げが増える結果となった。
また、最近では本部がインターネット上で直接販売するECもオーナーの懸念材料の一つだった。そこで、あえて受け取りを店舗にすることが選べるようにECサイトを設計。受け取りを店舗で行えば、店舗で購入したのと同様、売り上げは加盟店の物になるようにした。現在では66%が店舗受け取りになっている。
「『加盟店とともにワークマンは伸びている』ということを、社長になってから(土屋嘉雄)会長にはさらに厳しく言われています」と小濱英之社長も苦笑する。
「今選ぶんだったら、ワークマンのオーナーがよかっただろうね」
あるセブン-イレブンのオーナーは、記者の取材にこう漏らしたことがある。
しかし、今は絶好調のワークマンでも、良い時ばかりは続かないだろう。消費環境の悪化や建築需要の減少など、不安要素は尽きない。成長期にはもてはやされたコンビニのFCも、本部の「共存共栄」との言葉が今は空虚に響く。ワークマンのFCが、オーナーから“ホワイト”だと評価されるのは、本部とオーナーの信頼関係が強固であることに他ならない。いつかこの信頼関係が揺らぐときがきたら、それはワークマンの致命傷になるだろう。
「本部はヒットを生み出し続けてくれると信じている。売れなくなる時期がきたら? そのときのために今からお金を貯めておきますよ」(武藤さん)
オーナーの期待に応え続けることができるかどうかが、ワークマンの今後の成長を左右する試金石となるだろう。