朱禪-brog

自己観照や心象風景、読書の感想
を書いてます。たまに映画も。

本感想 上海の長い夜 鄭念

2022-03-12 07:47:18 | 日記
上海の長い夜 上下巻
鄭念 1988年作


著者の回顧録いや真実の記録と
言っていいと思う。

今から55年前、著者は
突然暴風雨のような近衛兵の
来襲に会い、略奪、迫害、拘禁される。

今、世界の強大国となった中国で
起こった文化大革命が真実の場
であり記録は進んでいく。

資本家というだけで
党に対する逆賊とみなし
ありもしない事を「告白」という
見世物の場で公開し逆賊の烙印を押す。

文中、彼女はあるゆる非人道的
な行為、拷問、死の寸前にまで
至る独房生活を送る。
たったひとつの希望は
会えないひとり娘だ…

「生きざま」
もし一言で感想を述べるなら
これに尽きる。

腎臓がひとつなく
健康状態もよくない著者は
「してないことにはしてないとしか
言えません。
それが私の真実です。」
と言う。

精神が崩壊する
いや、死んでも不思議ではない
環境で
「真実」にのみ「忠実」であらん
とした。

決して折れる事のない
「生きざま」
よくぞここまで…
また、よくぞこの著作を書き上げて
くれたと感謝する。

そして、中国という国に対して
ひと言も論じてない。

陳腐な言い回ししかできないが
著者は愛国者であったと思う。

祖国から離れて眠る著者は
いまも中国を見つめているだろう。
そして、どう真実を見つめているだろう。




本 感想 洋船建造 吉村昭

2022-03-11 07:01:07 | 本 感想
洋戦建造

大黒屋光太夫は日本の外洋沖に遭難し
南から北に流れる黒潮に乗り漂流する。

地球の自転作用により壮大な幅と流れ
となる黒潮の行先は
北方ロシアのアリューシャン列島
カムチャツカ半島となり
アメリカ大陸を超えて地球をひと回り
する。
光太夫は
様々な艱難の末ペテルスブルクにて
女帝エテカリーナ二世に謁見したという。
光太夫の切々とした帰国の願いに
女帝は応じた。
これは女帝が日本との交流の時期が
到来したからと判断したものだと
作家吉村昭氏は言う。

女帝の命を受けた
ロシアプチャーチン使節は
軍艦に乗り日露和親条約の交渉を
開始する。

が、時の安政の大地震が発生し
ロシアディアナ号は転覆沈没する。

日本方 勘定奉行川路聖謨
(かわぢとしあきら)
ロシア方プチャーチン
双方の指揮官に漢気をみる。

内産物、海産物に恵まれた故に
外からの輸入に頼る必要のない
当時の日本は内国廻船を建造する
船大工のみであった。

そして、国交はない。

礼節と万国法にもとずき
川路聖謨は軍艦を新たに建造する
意志を示す。

当時、アメリカと日米通商条約を
締結したとはいえ、鎖国状態であった
日本はオランダ語でしか意思疎通が
できない。

内国廻船の製造技術しかもたない
船大工であるが、船を造る技術は
相当なもので、苦労の末
初の洋船建造を成し遂げる。

完璧に蘇ったディアナ号は
故国に帰国し
その後、礼節には礼節ともいえる
絢爛豪華な装飾を施した
ディアナ号で日本に凱旋し
誠を日本に伝える。

伊豆の戸田浦という港を訪れたい
と思う歴史の影絵と呼べる作品
だと思う 。

本 感想 陳舜臣 「五台山清涼寺」

2022-03-10 07:11:58 | 本 感想
魏呉蜀、北南宋、金、女真、
明、清それぞれの時代に在った
職人、芸人を題材にする
エッセイと小説のような短篇集

史実を元にした創作(フィクション)
であるが
作者の伝えたいあるいは描こうした
ものはなんなのだろうと思いつつ
読む。
果たして、
その時代を浮びあがらせるのは
豪壮優美な建築物でもなく
故宮に陳列される作品でもなく

太古、現代と変わらない
人間というものの無常かもしれない
という感想をいただく

本 感想 「心」 姜尚中

2022-03-10 01:44:15 | 本 感想
小説はいや本と言っていいでしょうか
向こうから呼ぶと思うことが
ままあります。

個人的にはなにかを求めている時
(実利、ハウツー、方法論等)は
目的がハッキリしているのでそう
思うことはないです。

なんとなく、古本屋に行ってみたい
目的の読みたい本もない
ただランダムに陳列された
背帯の題名と作者だけを目で追う

ふと、手がとまる
そんな作品を読みました。

直後の感想は
もしこの小説を大学生のぼくが
読むとどう感じるのだろうと
自分に問いかけた事だった

末尾の解説を読むまではノンフィクションだと思っていた
今も実話を元にした小説と
思っている

主人公と青年との往復書簡(メール)で「あの子」と思った青年との交流が始まる

親友と心友との別れ
そして「あの子」は誰なのだろう

死と生、生と死
過去と永遠
理屈であきらめたり納得できない
凄まじい現実

ぶよぶよにガスがたまる死体
頭部と片腕がない死体
骨と頭髪だけの死体
デスセービング
ゲーテの親和力の登場
カタルシスの舞台

生きとし生けるもの末永く元気で

心が震える
魂が震えことりと前を向く

小説はこれだという読み方はないと
改めて実感した作品だと思う。