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定年日和 エッセイスト・小川有里
「ねえ、たまには一緒に行きましょうよ」趣味の会の仲間たちから誘われた旅行を、彼女はまた断った。いや、彼女はほかの友人とも一緒に旅したことがない。いつも一緒に行くのは夫とだけだ。
彼女の夫は59歳。現役である。3年前から単身赴任中だ。片道3時間半で帰れることもあって、月に2度は必ず帰宅する。2ヶ月に1回は休日の前後に有給休暇をくっつけて取り、彼女と1泊旅行に出る。「早くから安く泊まれる旅館を探して予約し、切符の手配など全部やってくれる」というサービス精神たっぷりの夫である。お盆休みや正月休みなどの時は2~3泊で誘ってくれる。もちろん彼女は「行くだけ」でいいようになっている。
単身赴任になってからは、家に帰っているときも「買い物に行こうか」「庭の手入れをしょうか」と彼女と一緒にいたがる。彼女は言う。「夫は昔から人付き合いが嫌い。会社の同僚とも一切飲みに行ったりしない。同窓会だって1回も出席したことがない。友達が1人もいないの。そう、妻の私がただ1人の友達ってわけ。だから何にでも私を誘うし、私の方も断ると悪いと思ってこれまでは誘われるまま同行した。でも」
「でも?」「このままでは困るわ。来年夫は定年になる。今は離れているからいいけど、いつも家にいて顔を合わせている中で『あそこへ行こうか』『ここへ行こうよ』ってしょっちゅう誘われてもねえ・・・・。きっとわずらわしくなると思う」
定年後も「たった1人の友達」が、これまで通り仲良付き合ってくれるものと信じている彼女の夫。「妻だけ、家族だけ」大事にしてきても、こういう展開になる。どんな夫婦でも定年日和は簡単にはやってこないようだ。(毎日新聞 セカンドステージ)
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