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テレビで、江夏豊の藤沢周平『蝉しぐれ』との出会いを見た。蝉しぐれは、2005年に黒土三男監督により市川染五郎、木村佳乃の共演で映画化されている。山田洋次監督が撮った『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』『武士の一分』も皆、藤沢周平文芸の原作から出来たものだ。
江夏豊氏の現役時代は、黄金の左腕を持つ優勝請負人として球団を渡り歩き、20歳でシーズン401の奪三振の世界記録を樹立し、36歳で大リーグに挑戦したが、藤沢作品との出会いは解説者として再出発した今から10年前のことだそうだ。最初に読んだ『蝉しぐれ』で強烈な印象を受け、それから読みまくったとか。
氏を強くひきつけたのは、主人公の文四郎の気骨ある生き方と幼なじみとの生涯変わらぬ友情だという。特に気になるのは真剣勝負の場面、戦う者だけが知る世界だそう。例えば自分が甲子園のマウンドにあがれば、甲子園には独特の風があり、風の中には匂いもある。その中で歓声の音、相手バッターのくせ、今度はどういう球を待っているのかな、というようなことを瞬時に自分で計算していくわけだから、じゃそれをどこで養うかというと経験しかない。そして失敗しかない、野球は失敗して学んでいくことができるが、じゃ果たして剣の道で失敗を重ねて学んで行けるかといえば大変むつかしいものがあると。
反逆者の子という汚名を背負いながら文四郎は剣の道に打ち込む。「攻撃の比重は、あとの一撃にあった。肩を狙って来る、はじめの一撃はむしろ虚で、下段から襲いかかる切り返しが、実である。返しの竹刀(しない)が神速(しんそく)を帯びるのはそのためだ。文四郎はためらわずに、見えている興津(おきつ)の篭手(こて)を打った。」
テレビの最初の場面どでかい体の江夏豊氏が、『蝉しぐれ』の小さな文庫本を、とつとつと決して流暢でない朗読をしていた。以前にもNHK俳壇のゲストで自らの作品を紹介しながら出演していたシーンも思い出す。野球と文芸、一見別世界のような気もするけど、そのプレーヤーによって、相通じるもの、よりどころとするものが見出されることに感心した。
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