-ALKAN-

しどろもどろでも声は出るなり。

お留守番閑話

2017-12-14 13:23:19 | 日記

 夏目漱石の『硝子戸の中』という小説があります。小説じゃないか、エッセイ。いやあれこそ、私の思う、閑話という奴。

今日はそんなイメージで。まるでギターで好きなアーティストを耳コピする気分で。

 

 膝を悪くして以来、我が家のテレビはほぼ点きっぱなしである。つきっぱなしていいのは心太ぐらいだよ、とは粋な事を言うようだが、とにかく私にとってそれは大した事でなくはない。

 私の以前は、つまり膝を壊す以前は、すなわち仕事をしていた当時は、所謂、今となってははるか昔のように思える、サラリーマンだった時代は、テレビをほとんど見なかった。見るのは、妻が息子に観てもよい、と許可している、Eテレの『ピタゴラスイッチ』『でざいん あ』『シャキーン!』ぐらいである。世の中の情報とは完全に隔離された状態で過ごしていた。

 だからこうなった今、暇の徒然と言おうか、試しにテレビを消してみたのである。するとものすごく、静かになったのだ。これが以前は普通であったのかと疑いたくなるほどの、それはもう、なにもかも諦めたような静けさである。

 妻は正月のおせちにするために、近所の畑に芋を掘りに行った。息子は学校だ。そして私はと言えば、毎日なのだが、一人留守番である。そうして結果は同じでありながら全く不確定で掴み所のない時間は、私の前を大蛇のように不気味にゆっくりと過ぎてゆく。私はといえば、まるでその足音を耳を欹て聴くように、ただじっと息を殺し、パソコンと対峙したまま座っている。確実にわかっている事は、私はもう今日外出する予定はないという事。あと10日ほどでクリスマスがやって来るという事。

 だがそうしてじっと座っていると、まるで峠の茶屋の老翁か温泉宿の仲居が、茶か団子でも勧めてくるかのようにおずおずとしながら、さも意味ありげな事柄が頭なのどこぞから一個、一個と、形を澄まして浮かんでくるのである。

「あと10日でクリスマスなのに、息子のプレゼントを買いに行ってない。金は何とでもなると妻が言っていた。だから問題はプレゼントの趣旨と質だろう。トイザらスの包装紙では、サンタクロースをまだかろうじて信じている息子にとっては薄情な仕打ちともなりかねない。それに、サンタクロースがうちに来るのは実質今年が最後になるかもしれないのだから、出来るだけ面白おかしくしてやらないと、息子の今後にも影響が出るやもしれない。世の中に不信感を持ったまま大人にしてしまっては、愚父の諫めを、もはや膝のせいだと言い張ったところで免れ得まい」

「全国各地で大雪が降っている。だがうちのガルペにはスタットレスタイヤがない。雪の日は乗らなければいいと妻は言う。しかし、どうしても乗らなければならない時にこそ重宝すべきなのが車であって、その車に乗るか乗らないかは、乗る人間が決める事はほぼ稀だ。クリスマス商戦でタイヤが安いうちに、思い切って買っておくべきか」

「妻は何も言わずに出かけたが、この強風の中、ベランダではためいている洗濯物を、私はきっと、日が暮れる前に取り込んでおいた方がいいのだろう。妻は、『あ、いれてくれたんだ、ありがとう』と言うかもしれないし、何も言わないかもしれない。さもなくばはじめから、日の暮れる前に帰ってきて、自分で取り込むつもりなのかも知れない。あなたなど、始めから当てにしておりません。と」

 それも致し方ない。というのも、私は昨日、妻の言伝を忘れ、数多洗濯ものを、すわ氷点下というベランダに干しっぱなしにしてしまったのである。これでは今日何も言伝られなくても無理もない。何もすることがないのというのに、私はこの虎の子の一件の予定約束をも易々と反故にしてしまったのである。膝を悪くしてからのこの二か月弱という間、誰とも何の約束もしていないし、朝病院に通う以外には何の予定も立てていないのにだ。思えば、なにもしなくても自動に日が暮れる事に初めは緊張し、しっくりしない違和感と、言い逃れ様のない罪悪感を感じ、悔恨と懺悔をもって夕日を眺めたりしていたものが、今ではもう時計すら見なくなっている。

 きっとクリスマスツリーも、あと10日も過ぎれば、また妻がどこかにしまってしまう事だろう。だがそれがどこにしまわれるのかすらも、私は関知していないのだ。そして、いつの間にかまた鏡餅が飾られ、慌てて暦を見ると平成30年となっている。それが、今年の私にとっての正月となる事はほぼ、確実に思えるのだ。

 あぁ静か。本当に、いい街です。老後を過ごすにはぴったりだ。

 今朝無理やりに妻を車で買い物に送っていったのも、そんなあせりからかもしれないなぁ、と、こんなことはおそらくテレビが点いていたら、考えなかったでしょう。テレビは確かに偉大です。だが人工呼吸器のようです。あまり健全な人間が過度に使うものでもなさそうです。

 

やはり、欲しいモノはちゃんと欲してから自らで手に入れる。食べたいものは自分で調達し、言いたい事は自分の言葉で言う。これが健全。

だからもうしばらくテレビを付けません。 しばしの別れ。see you soon 貴乃花、太川陽介、金正恩、トランプ。 and so on!!

 

 

 

 

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