毎日のできごとの反省

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未完の大東亜戦争・渡辺望・アスペクト:副題・日本の戦後をゆがめ続ける本土決戦の正体

2015-09-08 16:07:20 | 大東亜戦争

 久しぶりに大東亜戦争論で、衝撃を受けた本である。従前の本土決戦についての論考とは、どこに米軍が上陸を予定していて、日本もそれを読み切っていたうえで、上陸後の住民を巻き込んで、凄惨な戦いを続け、結局は松代の大本営が降伏する、という戦闘シミュレーションものがほとんどであった。

 本書では、そればかりでなく、思想方面に展開し、現代に到るまで未完の本土決戦思想が影を落としている、ということまで言うのである。だが、最後に本土決戦アニメとしての「宇宙戦艦ヤマト」をもってきているのは、小生にはいただけない。むしろ、冒頭にこの文章を持ってくる方が、カルチャーショックも含めて、現在も日本人は、どこかに未完の本土決戦に対する思いがある、という刺激的な表現が強くなると思うからである。

勿論、この文章を相当修正しないと、トップに持ってくることはできないのだが。アニメを結語的な部分に持ってこない方が良い、というのは偏見によるものではない。小生は活字の書籍とともに、漫画でも本に親しんだ世代で、アニメも初期から見ている。活字でなければまともな本ではない、という世代ではない。

松本零士の戦場もののコミックは好きだし、宮崎駿などのように、相当な武器マニアの癖に強い反戦、戦争忌避の思想を持っている、という性格ではないからである。ただ松本も少々日本的リベラルの影響は受けていることは否めない。しかし、宇宙戦艦ヤマトの元の発想が、ブロューサの西崎義典でアニメが先行しており、その後松本の他にも、豊田有恒が加わっていた、というのは知らなかった。

しかも軍艦は、三笠、長門、大和と変遷していたというのも知らぬ話だった。この順番は、想像するに、絶対的な勝利者、国民の憧れの軍艦の象徴、秘密のベールに包まれて密かに悲劇の敗北をした、というように、期待の星から段々悲劇性を増していったということであろうか。

考えてみれば、「世界的には当たり前の『本土決戦』」というのは確かに当たり前で、世界史上、戦争の9割以上が本土決戦の形で戦われているそうである。以前ブログなどにも書いたが、現在の日本人は特に本土決戦、ということに拒否感情を持つ。しかし、そういう人ほど専守防衛を言うのだが、専守防衛とは本土決戦そのものである。

日本が講和を受け入れたのは、原爆投下が原因ではなく、ソ連の参戦が大きな要因を成していた(P163)というのも本当であろう。逆に言えばソ連が参戦しなければ、原爆が投下されても、講和はなかった可能性があるということである。

ひとつ異見がある。東郷外相が「天皇の国法上の地位を変更しないという条件のもと宣言を受諾する」という穏当な回答案を書いたのに、平沼枢密院議長が「天皇の国家統治大権を変更しないという条件のもと宣言を受諾する」という強硬な文面に強硬に変更させた。そのため米国は疑心暗鬼になって「天皇は連合国最高司令官に従属する」とでも訳すべき文章を追加した、というのである。

もし東郷案が「受け入れられていたら、ポツダム宣言受諾条件に拘束されたアメリカは平和憲法の押しつけなどはできなかったかも知れないのだ。(P170)」というのだが、甘い考え方であると同時に、論理矛盾である。ポツダム宣言に拘束される、ということは国際法を守る、ということである。アメリカが国際法を守るなら、そもそも憲法を変えてしまうという、より重大な国際法違反を犯すはずはないのである。その上、ポツダム宣言受諾と言う条件付き降伏であったのを、国家の無条件降伏であるかのようにすり替えて、その後の占領政策を行った。この意味でも米国がポツダム宣言に拘束されようはずもない。

もし、日本が本土決戦を行ったら、戦後はどうなっていた、と言うことに関しても興味深い見方を提示しているので、ぜひ読んでいただきたいと考える次第である。ひとつ不満を言うと、アメリカにも日本本土上陸で相当の損害が出る、と予測されていてトルーマン大統領になってから、それに対する恐怖心から本土決戦を避ける動きが大きくなっていった(P101)というのであるが、もし日本がポツダム宣言を拒否した場合にでも、米国が本土決戦を避けて、講和したという可能性について書かれているかと期待した。

しかし話の展開はマッカーサーが誇大妄想的ヒロイズムから、本土決戦に固執して、やり残した本土決戦の代替として、朝鮮戦争に臨んだ、となっている。ベトナム戦争についても、やり残した本土決戦と言う見方もある、という考えを書くのだが、こうしたマクロな見方が本書の魅力でもある。



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