私は星を見ていない時でも望遠鏡の対物レンズ側から覗くことが良くある。そのクリアなコーティングされたレンズから何か神々しさを感じ、見ていて飽きない。
さて、FS128を手に入れた私は、夜ごとに重いこの望遠鏡をベランダに運び出し、都内で見ることの出来る天体をつぶさに見ていった。惑星や月面はもちろん、M13, M92, M3, M5, M15等の明るい球状星団を中心に比較的見やすい、ごく限られた惑星状星雲などが主だった対象物である。 残念ながら本来一番好きな散光星雲や系外星雲などはここではほとんど見ることが出来ない。
これら2本の屈折望遠鏡との付き合いも長くなってくると、細かな点で優っている点、劣っている点があって面白い。
■ 光学系
FS128mmはシーイングさせ良ければ惑星面のディテールや球状星団が明るく良く見え、GOTOセミアポ80mmとの差が良く分かる。客観的な光学性能としても恒星のディフラクションリングも気流が安定している時はピントの前後でほぼ対称に見える。眼視による色消しに関してもさすがにフローライトだけあって色の滲みが少なく、エアリーディスク径の小さい針でついたような点像に見える。五藤のセミアポは長波長域(赤側)の修正に主眼を置き、青側は多少犠牲にした設計であるため、高倍率にすると若干青く滲むきらいがあり、一緒に並べて同一の星を見てみると、フローライトは相対的に黄色味を帯びた感じに見えてくる。集光力、分解能はやはり1ランク ステップアップしている感じだが、口径比以上かというと微妙である。
■ 操作性
まず、天体観望時の扱いやすさにおいては、圧倒的にMARK-Xに軍配が上がる。128mmは鏡筒が一回りも二回りも太くなっている分、扱いが難しくなるのは当然だが、問題は鏡筒のバランス位置にある。128mmと80mmのレンズの重さは単純に面積比だけでも2.6倍。厚み分も比例しているとすると、なんと80mmの対物レンズの4倍もの重さになってしまうのである。
事実128mmの望遠鏡の鏡筒の前後バランスの位置(鏡筒バンドの位置)は極端に対物レンズ寄りなってしまう。これにより私のようなstar hopping的な観望スタイルで、夜空の様々な方向に散らばるオブジェクトをぱっぱっと見たい場合、接眼部の可動域が大きくなり、それゆえに見るポジション、姿勢の変更、鏡筒部の回転、天頂プリズムの回転など、対象物を見るまでの作業が結構煩雑に感じてくる。更に接眼部から赤道儀までの距離が長くなってくると微動装置に手が届かないことが有ったりして、昔ながらのフレキシブルハンドルが欲しくなったりするのである(有れば有ったで鏡筒にぶつかったり邪魔な事もあるが)。
鏡筒部のバランスに関しては、FS128の問題ではなく、全ての大型屈折望遠鏡共通の問題で、これを解決することは簡単で、多少のアンバランスによる負荷にも耐えうる堅牢な架台を使用すれば良いだけである。あるいは接眼部にバランスウェイトを取り付けても良い。ただこの解決法は、据え置き型の発想で、可動型システムの場合は重量増加と操作性のどちらを取るか悩ましい問題として残る。
これに関連した操作性に関して非常に細かい事ではあるが、接眼部のアイピースの締め具の構造も挙げておきたい。FS128の接眼部はリングで徐々に締めていくもので、光軸の安定性から行くと正しいやり方だと思う。ただ対象物ごとに天頂プリズムを動かす作業が頻繁となると、回して徐々に締める作業が煩雑に思えてくる。ねじ/クランプ止めもオプションとしてほしくなる。またタカハシの接眼部分は汎用性を重視するあまり多種多様のリングで構成されすぎているように思う。ユーザ側からみるともっとシンプルな方が使いやすい。ユーザインターフェース、ユーザビリティの観点から一考の価値がないだろうか。
■ 極軸合わせ
今はこの作業も必要無くなりつつあり、自動的にPCによりAlignmentしてくれる便利な時代だ。ただMARK-X発売当初は、極軸望遠鏡そのものにびっくり、そのレチクル板の斬新なパターンにワクワクしたものである。当時Kenkoからも星野写真撮影専用機が発売されていて、極軸合わせ用に円と直線とマイナーな星々による分かり難いパターンもあったが、MARK-Xの極望の中には、北斗七星とカシオペアが描かれているのである!更にその視野に見える小さな円内に北極星をはめ込むだけ(今は新パターンで小さな円は無くなった・・写真)で天の北極に極軸を簡単に合わせる事できるのだ。これだけでこのシステムが欲しくなったものである。
1台の望遠鏡システムに、主鏡、ファインダー、極望と、3台の望遠鏡を搭載していること自体が贅沢に思えてならなかった。この極軸合わせ用レチクルパターンはGOTOのMARK-X時代を象徴しているように思う。タカハシも5年ほど前から、同様のパターンで2050年まで対応可能なものを配布している。
それぞれの極軸合わせ用の微動装置に関しては、MARK-Xの緯度調整用装置はアルミで高級感もありシッカリ作りこんであるが、方位調整用微動装置が無く、手動によるため多少調整にてこずる。EM-2の微動装置はいかにもタカハシらしく、武骨ではあるが、両方の微動装置ともに使いやすい。
■ ファインダー
TAKAHASHIが50mm×7倍、GOTOが30mm×9倍で両方とも良く見える。照準調整はTAKAHASHIが3点、GOTOが6点留めで行う。GOTOのファインダーは40年を迎え、最近十字メモリパターンに埋めてある黒い塗料が剥げてきたため、全て拭き取ってしまった。視認性は落ちたが、ガラスに刻まれたパターンは問題なく使用できる。 タカハシのファインダーには暗視野照明装置が付属していて、十字線が見やすくなるような配慮が施されている。 ロータリースイッチで調光機能がついていて便利なのだが、offにしたつもりが知らない間の接触により簡単にon状態になってしまい、使用したい時に電池切れ、ということが何度かあった。
■ モータードライブ
EM-2は赤道儀に内蔵されており、ACアダプターからの電源供給用のジャックとコントローラーのジャックを差し込んで使用する。購入後しばらくすると赤道儀内に取り付けられている電源プラグが奥にもぐり込んでしまい使用できなくなってしまった。カバーを開けてみると電子基板が縦に付いており、プラグに強い力が加わると簡単にプラグ止め部分が変形してしまう。これは構造設計上の検討不足である。その他は可もなく不可もなく、いたってシンプルなシステムである。
MARK-X用には純正MDも販売されていたが、当時は高価で購入できず、ミザール製のMDを使用していた(わざわざミザールでMARK-X用に歯数を調整したものを提供いただいた)。久しぶりに出して動作チェックしてみたところ動く事が判明し、掃除後Celestron社のPowerTankに直接接続して使用するようにした。高精度を要する写真撮影などには使用は出来ないが、みんなで集まって天体観望する程度ならまだ役立ちそうである。