花日和 Hana-biyori

映画「シークレット・チルドレン」

先日「君の名前で僕を呼んで」を観て、いまごろティモシー・シャラメの虜になったので、まあ過去作をみるよねってことで、アマプラで「シークレット・チルドレン〜禁じられた力〜」を視聴。監督はアンドリュー・ドロス・パレルモ。

*** ネタバレの感想です

森の奥の一軒家で両親と暮らすザック(ティモシー・シャラメ)とエヴァ(キーナン・シプカ)の兄妹には、瞬間移動できる超能力があった。母親はそれを「ギフト」と言ったが、父親は「神の意に背くもの」として、力を使うことを固く禁じる。

ザックとエヴァは夜中にこっそり家を抜け出し、瞬間移動して無邪気に遊ぶ。だがあるとき父親に見つかり、残酷な罰を受けることに。すっかり萎縮するザックに反し、妹のエヴァは折れることなく夜中に家を抜け出すが、その晩母親が発作を起こし亡くなってしまい……。

 

最初からけっこう陰鬱な雰囲気で、情報量が少ない話だった。家族はどうやら高い壁で閉ざされた土地に暮らしているが、詳しいことは分からない。説明不足が余計に不穏な空気を煽っていて、この家族はきっと無事では済まないという予兆を常に感じさせた。

主演二人の魅力に引き込まれて観たけれども、終わった直後は「え、これで終わりか…」と物足りなさを感じてしまった。物語の途中だけ見せられてその前後が無い感じというか。

 

■「閉じ込めるられること」の恐怖

でも後から、この物語は「とにかく閉じ込められるのがコワイ人」が考えた話ではないかしら…と思ったらいろいろ納得できた。兄妹がもつ超能力が、殊更何かから逃げたり解放されるためだけに使われているから。

閉じ込められるというのはつまり「自由を奪われる」「自分の意志を剥奪される」ということで、物理的にも精神的にも自分が好きなように生きていたいと思うのは、誰にとっても自然なことだ。

この「閉じ込める/閉じ込められる」が、映画の中で繰り返し出てくることによって、見ている方は自由を奪われることの恐ろしさや怒りを覚えることになる。

 

例えば、兄のザックが初めて瞬間移動したのは、セミをたくさん捕まえてビンに詰め、母親に見せに行ったときだと彼は語る。妹を身ごもっていた母が倒れていたショックがきっかけだった。ビンは割れてセミは逃げていったという。

父親が子供たちにした残酷な罰というのは、服を壁に釘で打ち付けて部屋に閉じ込めることだったし、父親はエヴァを「始末」するとき、ザックをクローゼットに閉じ込める。そもそも、家族は壁で閉ざされた土地に父親が子供の頃から住んでいたらしい。エヴァたちは父親から開放されたくて、夜中に瞬間移動を使っていたのだろう。

 

■「家」という器

偶然外の世界で助けられたエヴァは、奇跡のように親切な人にしか出会わないが、それらをことごとく拒否して瞬間移動を繰り返しながら逃げていく。

最後はザックと再会し、二人になった兄妹は家族で暮らした家を燃やす。映画は炎に包まれた家を見つめながら並び立つふたりの姿で終わるのだが、彼らが今後どうするかはっきりとは示されていない。

だから、この映画のレビューは「わけが分からなかった」というコメントが多かったのだけれども。

たぶん、彼らを閉じ込めていた「家」という器を燃やして無くすことは、とても重要だったのだと思う。今後外界に出ようと二人で再び森で暮らすことになろうと、それが彼らの自由意志であるならどちらでもいいのだ。

ティモシー・シャラメがいたいけな少年をまっとうしていて良かったのはもちろん、あとからじわじわ、色々と考えさせられる余白の多い話だった。観ているあいだはとにかく陰鬱ね~と思っていたけれど意外とよかった、という結論に至った次第。

 

 

 


 

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