*『論語』には、孔子の考える最高の徳、仁(思いやり)について触れた章が多くあります。今回取りあげるのは、門弟の子張が仁について孔子に尋ねた場面です。
〇子張仁を孔子に問ふ。孔子曰く、「能く五者を天下に行ふを仁と為す。」請ひて之を問ふ。曰く、「恭・寛・信・敏・恵なり。恭なれば則ち侮られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人任じ、敏なれば則ち功有り、恵なれば則ち以て人を使ふに足る。」
〇読み しちょうじんをこうしにとう。こうしいわく、「よくごしゃをてんかにおこなうをじんとなす。」こいてこれをとう。いわく、「きょう・かん・しん・びん・けいなり。きょうなればすなわちあなどられず、かんなればすなわちしゅうをえ、しんなればすなわちひとにんじ、びんなればすなわちこうあり、けいなればすなわちもってひとをつかうにたる。」
〇意味 子張が仁政の実現について必要なことを先生に問うた。孔子がおっしゃった、「五つのことを天下で行うことができれば仁と見なせよう。」と。子張は更にその中身を問うた。先生がおっしゃった、「それは、恭・寛・信・敏・恵の五つの徳目だ。恭であれば軽く見られることがなく、寛であれば多くの人々の気持ちをつかみ、信であれば人々が自分に任せてくれ、敏であれば功績を挙げられ、恵であれば人を動かすことができる。」と。
〇語注 *恭・・・敬意を持ってへりくだる。丁寧な儀礼の態度。 *寛・・・ゆったりしている。寛容。
*信・・・言行一致。 *敏・・・すばやい判断、対応。 *恵・・・めぐみ。恩恵。仁恵。
子張は孔子よりも48歳年少だったと言われます。孔子が亡くなったときには20代半ばでしたから、この話も子張の若いときのことです。孔子の門弟は学問を積み人格を磨いて、官僚・政治家になることを考える者が多かったようです。ここでも、子張が仁について問うというのは、仁政について尋ねているように思われます。
官僚・政治家の持つべき人徳には種々あり、『論語』でもいろいろ述べられています。
私が、ここで注目するのは、「敏」です。すばやく問題をつかみ、すばやく対応していくのは、大変重要なことです。特に、事が起こったときに、最悪のことを考えて、周囲、関係者に対応していくことが重要だと思います。
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