湧水を貯めた池と、その池の周囲を森が囲んでいる公園が近所にあって、時々散歩に出かける。
そこの奥まったところに低い崖が屏風のように連なり、ちょうど頭の高さのところに藪が生い茂っている場所がある。
そこは格好の陽だまりになっているのでベンチが置いてあり、そこに座ってじっと陽のぬくもりに身をゆだねていると「あぁ、ボクもジジイになったものだなぁ」としみじみ感じることがある。
これで杖でも突き、老いた日本犬の雑種でも連れていると〝しなびたジジイ〟の典型のようだろうな、などと思う。
そんなこんなで、傍から見れば典型的な日向ぼっこのロージンに見えることは間違いないが、フトわれに返るのは「チャッチャッ」という鳥の地味な鳴き声が頭の上の手を伸ばせば届くすぐ近くのやぶの中から聞こえてくるためである。
本来ならあの美声でボクたちをうっとりさせる声の持ち主と来ればウグイスを置いて他にはいるまい。
そのウグイスが春を待ちかねてか、しきりに地鳴きを繰り返している。
「チャッチャッ」はウグイスの地鳴きの声なのだ。
彼、彼女たちも今年の冬が温かいことを察知して、もうもぞもぞし始めたのかもしれない。
冷静に考えれば地鳴きが漏れるのはごく普通のことで、別に春を待ち焦がれているわけでもなんでもなくて、待ち焦がれているのはボクの方。
だからそうこじつけるのであって、あのホーホケキョは繁殖期のオスだけのもの。それ以外の季節は雌雄を問わずウグイスはいつだって「チャッチャッツ」と鳴いているのだ。
ただ、ホーホケキョの前に「ホーホケ」とか「ケキョ」「ケキョケ」などと細切れに聞こえることがあるが、あれには特別に名前が付けられていて「ぐぜり」って言うんだそうな。
実のところはホーホケキョの練習だそうで、最初はどうしたってうまく鳴けないものらしい。
そしてモノの本によると「ホーホケキョ」のうち、「ホー」が息を吸う時に出す声で「ホケキョ」が吐く時だそうだ。
「はい、息を吸ってぇ~、はい、吐いてぇ~」を繰り返してるってわけだ。
何やら健康診断を受けてるみたい。肺活量検査か?
モノの本による知識をもう一つ。
ウグイスは葉が生い茂った低木や笹やぶを好むため、地鳴きが聞こえてくるのもそういう場所からである。
ボクが聞いたのもそんな場所だった。
だから地鳴きを「笹鳴き」とも言うんだそうな。でもってこの時期のウグイスを「藪鶯」とか「笹子」と呼ぶんだって。
ところでボクは毎年「初音」を楽しみに待っている。
それはあの美声を聞きたいためでもあるが、それよりなにより、ウグイスが鳴いてこそ本格的な春の訪れだと感じるから。
ボクの記録によると去年は2月22日だった。
2018年は2月28日。その前の2017年は2月25日だった。
何れにしたってまだひと月以上も先のこと。
でも確か2006年は2月7日か8日だった記憶がある。
なぜ覚えているかといえば東京湾に浮かぶゴミの島で知られる「夢の島」のゴルフ場でゴルフをすることになっていた朝、家を出ようとしたらいきなり「ホーホケキョォ―」の美声が届き、あの麗しき鳴き声に送られて出かけたからである。
今年は記録更新が確実なんじゃないかと思う。
ウメだって早そうだし、まさかの1月中ってことも…
公園のあちこちから水がしみ出している(見出し写真も)
陽が上がるにつれて日の当たるスペースも増えていく
池のほとりのジャヤナギの若葉は森中で一番の早起きだが、既に枝先が明るい赤みを帯びた色になってきて、早くも芽が飛び出してきそうな勢い