トイレに行こうとして外がやたらに静かなのに気付き、ブラインドを広げて見たら、案の定道路や屋根が真っ白である。
前日から天気予報は「雪だ、雪だ」と騒いでいたが、的中してしまった。
ベランダを覗くとサルビアにも雪がかぶさっていて、白と赤のコントラストが鮮やかである。
ナポレオンは「余の辞書に不可能という文字は無い」とうそぶいたそうだが、夏の花のサルビアの辞書にも「雪」という文字は無いはずである。
きっとびっくりポンだろう。
わが家の前の道路は坂道で、雪かきは欠かせないのだ。ご近所さんが転んで骨折でもしたら一大事である。
これでも若い頃は出社前に張り切って除雪作業をしたものだが、今は腰を痛めないように注意しながらの作業となり、面倒なことではある。
さっと太陽が出て、昼前ころにはきれいに消えてなくなるとよいのだが、なかなかそううまくはいかないものだ。
さて、昨日はわが二合会の初句会を東京の谷中界隈で催した。
日暮里駅10時半集合という、我らにとっては初めての早起き句会だったが、久しぶりに夕焼けだんだんとか谷中墓地の散策を楽しみ、朝倉文夫彫塑館では昭和初期のモダニズムあふれる洋館としっとり落ち着ける伝統的な和の部屋を持つ日本家屋の、自然の木の曲がり具合をそのまま活かした手すりなど、随所にこだわりを感じさせる凝った造りにびっくりしてきた。
家屋がロの字に囲んだ中庭は全体が池になっていて、10トンかそれ以上のトラックでも使わなければ到底運びきれそうにない大岩がデンと置かれている。
この岩が実に滑らかな曲線を描いていて、セクシーでもあり、見方によってはたくましくもあって、稀代の彫刻家が目をつけただけはある独特の存在感を醸し出しているのである。
その脇には細身の初めて見る繊細な竹が青青した葉を冬の陽に透かしていて、天に向かって一筋だけ細く水を吹き上げる噴水を配したのも、あえて意図したものだろうが、絶妙な対比を見せている。
ダイダイを草カンムリに古と書き
橙の色にそぐわぬ苦さかな
冬晴れや段々を行く猫も行く
お年玉袋を脇に自習かな
恐竜と原人見入る春七つ
兼題は「橙」で、これは難物だった。5句とも、われながらつくづく駄句だなぁと思うのだが、致し方ない。
吟行のあとは谷中の旅館が経営している料理屋の個室を借り切って合評を行ったが、供されたのが品の良い中華風の懐石料理で、紹興酒によく合い、実においしかったのが、せめてもの慰めというべきか。
わが句会は20年近く続いているものの、句集を出そうなどという大それたことは口にすることさえはばかられるほどのへぼ句会なのだが、年取るにつれて図々しくなり、とりあえず直近の3年分だけでもまとめよう、ということに衆議一決したんである。
恥の上塗りと言えなくもないが、まぁ、同人だけでささやかに楽しむ酔狂は許されても良いだろう。
一部は周辺にもばら撒かれることになり、迷惑千万なことかもしれないが、その場合はお許し願うほかはない。
サルビアもびっくり。雪だって見たこともない花にびっくりだろう。
谷中銀座の夕焼けだんだん
谷中銀座は午前中から賑わっている。
スカイツリーが間近に見える朝倉彫塑館の屋上にはオリーブが大きく育っている。
谷中墓地内の看板。さすがに下町である。ひったくりを指して使っているのだろう「かっぱらい」という江戸の方言が生きている。
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