田一枚植えて立ち去る柳かな 芭蕉
芭蕉が敬愛した西行法師は今の栃木県那須郡芦野にある柳の傍らで一つの歌を詠んだ。
道のべに清水流るる柳かげ しばしとてこそ立ちどまりつれ
(道ばたに清水が流れ、そこに立つ柳の涼しい木陰でほんの一休みのつもりが、ずいぶん長居してしまった)
奥の細道の道中、案内されて件の柳の下に立った芭蕉の感慨は相当深かったようで、「西行の田植えを手伝ってそこを後にした」と幻想に浸った句を残すのである。
わが家の近くには狭いながら数枚の田んぼが健在で、この時期になると早苗の青い匂いと田んぼに張られた水の香りを嗅ぐのを楽しみに、田んぼの脇の道を用もないのに歩く。
もう30年以上前のことになってしまうが、この田んぼにホタルが生息していて(小さいホタルなので多分ヘイケボタルだろうと思う)、深夜酔っぱらって帰る時など、稲の葉の上で光るホタルを捕まえて煙草の箱を覆っているセロハンの袋に入れ、寝ている小学生の娘たちを叩き起こして「おい、ホタルのお土産だぞ」と言って顰蹙を買ったようなこともあった。
そのホタルもいつの間にか姿を消し、かつてはほんの数年前まで家族総出で手植えしていた田植え作業も、今は田植え機を使うからあっという間に済んでしまい、芭蕉が居合わせたとしても幻想など抱く暇もあらばこそ…である。
それでも稲穂の香りと水の匂いと言うのは懐かしく、吹き渡る風にこの香が潜んでいるのに気付くと「あぁ、やっぱりわが血には農耕民族のDEAがしっかり刻み込まれているんだなぁ」と感心させられる。
そういう意味でも、ここに奇跡のように残されている水田は狭いながらも、貴重なオアシス的存在と言ってよい♪
ホタルも戻って来てくれたらいいのだけれど…
合鴨が2、3羽早速お仕事中だった
足ビレを掻いて動き回ることで雑草が生えるのを防ぐ効能があるらしい 自然農法ですな
そして収穫時期の水が抜けた田んぼでお役御免となった合鴨は、収穫祝いの鴨鍋に2度目の御奉公をするんだそうな
真っ赤なカンナはこれからの季節の主役の"ひとり"
夏至を迎え、田植えも終わった今、梅雨が明けるのを待つばかり