平方録

納めの句会は蕎麦屋の2階

納めの句会、忘年句会に参加のため2日続きの横浜へ。

わが結社「二合会」は蕎麦屋の2階で開くことを旨としているが、吟行する場所の近くにいつもいつも都合よく蕎麦屋があるとは限らず、蕎麦屋があっても2階に座敷が無かったり、なかなか理想通りには行っていないのが現状である。
蕎麦屋の2階にこだわるのは、これはもう言わずもがななのだが、そばがきとかソラマメあたりを肴にして辛口の日本酒を舐めながら出来上がった句の良し悪しを批評しあい、締めにはキリリと引き締まった蕎麦の香りをかぎながら、一気にこれを手繰ってのど越しを味わうような、粋でメリハリを利かせた会にすべし、という思いからなのだ。

まぁ、それがなかなか粋な蕎麦屋にも行き当らないでいるように、わが句会の力量も含めて思い通りに〝山椒は小粒でもピリリと辛い〟というような具合には行っていないのだが、理想は理想として求め続けなければ何時になっても自分たちのものになるわけもなく、それで理想? を高く掲げていると言うわけなのだ。
一寸の虫にも何とやらである。

今回の蕎麦屋はボクが務めていた会社が6年間本社を移していたすぐ近くにあって、昼と言わず夜と言わずお世話になり続けた店である。
夕方の5時になるかならないうちに卓上の直通電話に女将から「いいソラマメが入ったわよ。そばがきも用意しておくからどぉ? 」とかかってくると、同僚や後輩を誘って2、3時間出掛け、頃合いを見て会社に戻って仕事の最終チェックをするような日々を過ごしていたのだ。
吉川英治が若かりし頃、横浜ドックで出来上がった船のペンキ塗りをするカンカン虫をしていたころ暮らした町にあり、「忘れ残りの記」には物価が安くてとても生活しやすい場所だったと描かれているところである。
ここには理想的な、他の客から隔離された部屋もあって、それが2階にあるのだから正真正銘の蕎麦屋の2階なのである。

部屋には冷蔵庫がドンと置かれていて、中には酒の類がビールから日本酒からウイスキー、焼酎とひととおり詰まっていて「好きに飲んでくださいネ」と言われるのだ。
そもそも意地汚い連中の集まりなのだが、寄る年波には抗えず、ずらりと並んだ酒瓶に目をキラキラ輝かせても五臓六腑が付いていかなくなっているので、早い話が宝の山を前に指を加えるの図——と言った方が正しいのだが、皆口々にその居心地の良さも含めて「ココを常設の会処にしたい」と言い出すありさまで、まぁ年に何度かはお世話になることになりそうである。

3時間余りの合評を経て、しがない働きアリたちの忘年会のために部屋を明け渡し、野毛の飲食街に河岸を変えたのだが、1軒目に立ち寄ったベルギービールの店ではジャズの生バンドが準備中で、ひょいとドラマーの顔を見たら元同業他社の後輩だったのにはびっくりした。
「野毛でドラムをたたいてます」とは聞いていたが、実際に目にするのは初めてで、聞けば間もなく60歳になるので役職定年になるが「再雇用になればもっと気楽にドラムがたたけます」と本格的ライブ活動に入るつもりのようで、ご同慶の至りである。

高給を食んでいるくせに「腹ペコの僕たちに愛の手を」などとぬかしながら、でかい金魚鉢を回してよこしたので千円札を放り込み、再訪を約束して店を出たが、ここのマスターとわが句友の画伯はパリ時代に知り合って以来の間柄だそうで、何やら熱心に話し込んでいた。
世の中は狭いのだ。

冷たい雨が降り出していたが「ラーメンが食いたい! 汁が飲みたい! 」という声に賛同し、これも昔飲んだ後に時々訪れた店は今でも健在で、ここでまずい紹興酒とギョウザを食い、ネギラーメンを頼んですすった汁が飲んだくれていた時代を思い出させてくれはしたが、それにしてもあの中華料理店は働きアリたちで超満員だった。
懐に隙間風が吹き込んでいるんだねぇ。
何がアベノミミほじックス…だ! 働きアリ諸君、このままでいいのか? いくつになっても働かされ、どんどん搾り取られるぞ。目を覚ませよ、もっと怒れよ!

おっと、忘れてた。ボクの提出句。

 凩はドイツ娘の素足舐め
 
 木枯らしよ山の一つも動かすか

 柿すだれ湘南の風やや違和感

 凍し風熱き湯の湯気ちぎりけり

 数え日や赤提灯は昼間から



思い出の蕎麦屋で納めの句会を開いた


2軒目のベルギービールバーでは敬意を表してベルギービールを飲んだのだが、サクランボのビールは甘酸っぱくて「う~む! 」の味だった




ドラマーは元同業者にして後輩のT社のT君


美空ひばりの少女時代の銅像が野毛にはあるのだ
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