にはとこの新芽を嗅げば青くさし 実にしみじみにはとこ臭し 木下利玄
近所の池と森の公園を歩いていてニワトコの新芽が、懲りずに再び芽を吹き出し、今度は最初のときより旺盛なのを見て、いつだったか強烈な印象を受けた歌に出会った幽かな記憶が蘇ってきた。
しかし、それが何だったか…思い出せないでいた。
今年のニワトコは芽吹きが早く、1月の下旬から2月初めにかけて新芽を吹き、こんなに早く大丈夫かと思っていたら、案の定、5日に降った雪で新芽は憐れ柔らかな葉先を黒く染め、ちりちりになって枯れてしまった。
ところが、それがかえってニワトコに火を点けたのか、虐げられれば反発するど根性の持ち主なのか、その後の暖かな陽気に便乗してか、芽の数は最初の芽吹きとは比べ物にならないくらいに増え、今や本格的に態勢を整えて春を迎えるつもりのようにみえた。
決して懲りない性質なのかもしれない。
しかし、昨日から再び季節は真冬に逆戻りし、最高気温は10℃に届かない。しかも一日中、冷たい雨まで降った。
あんなに春めいた陽気がやって来ても、なぜか「時にあらず」と歌い出すのを見送っているウグイスという慎重居士が居る一方で、「ニワトコさんや、あんたはせっかちだねぇ」などと、彼我の差に思いを馳せつつ「名句歌ごよみ」を手繰っていて「あぁ、これこれ♪ そうか、木下利玄だったよな♪」と記憶が繋がった。
実際に鼻をこすりつけて匂いを嗅いだことは無いから、新芽がどれだけ青臭いのか分からないが、芽吹きを急いで寒さにしおれ、再び前よりも勢い良く芽吹き出す"やんちゃぶり"を目の当たりにするにつけ、なるほど確かに「実にしみじみにはとこ臭し」なのかもしれないなと納得するのである。
ちなみに木下利玄は志賀直哉、武者小路実篤らと「白樺」を創刊した白樺派唯一の歌人で、「自然観察に特異な鋭さがあり、この歌もニワトコの新芽の朝から夕方までの微妙な心理的・物理的感触の変化を観察しながらつくった連作の一首である」「一見無造作な表現の中に、繊細な観察にもとづく写実と、そこから得られる無垢の感動を一挙にしぼりあげて歌にしている」と名花歌ごよみで著者・大岡信は評している。
とすれば、実際のニワトコは本当に青臭い匂いもするのかもしれない。
実に生き生きとした姿だと思う♪
ポツリポツリではなく、一斉にスタートダッシュが始まった感じ♪
実にしみじみにはとこ臭し…
近所の池と森の公園で芽吹きの1番バッターがニワトコとすれば、こちらは2番バッター
ニワトコのような青臭さはなさそうだが…
もしかしてマユミ…?