それにしても保護色と言うやつの効果は見事なものだ。
11月に入ったばかりの冷え込んだ朝、育苗中のパンジーの苗を見回りした際の事である。
朝日に照らされて瑞々しく輝く苗は順調そのものに見え、さぁ、水やりでもするかとジョウロを取りに踵を返そうとした時、眼の端にちょっとした違和感を感じた。
… !?
苗の若い緑色の葉が柔らかな曲線を描いている中に、これはまた極めて異質な硬質な直線がスゥ~ッと伸びていて、直線が交わるところでは鋭い角度で折り曲がってもいる。
何だろう…と思って近づいてみると、何と苗の大きさにも匹敵するような大きなバッタが苗の上に鎮座して動かない。
ヤブキリのようにも見えるがよくわからない。
そして、違和感を感じた直線と鋭角の正体はそのヤブキリもどきの大きな後ろ脚だったのだ。
直線の正体がバレてみると、全体像が浮かび上がり、目玉や触覚などの部品の存在も明らかになってくる。
近寄ってもじっと動かないので、指先でそっと触覚に触ってみるが、何の反応も無い。
それどころか身体全体もピクリとも動かない。
冷え込んだ朝の空気に身体の自由が利かないらしい。
しかし、それにしても2階のベランダにどこからどうやってやって来たのか。
そもそもその前にパンジーの苗を育苗中であることをどうやって知ったのか。
ベランダと言ってもわが家のベランダはそれほど狭い訳ではない。
他にも植物はたくさんある。
その中でどうしてパンジーの苗の上にいるのか。
まさか、こじゃれたレストランでも見つけた気分じゃあるまいな。
ムシャムシャ無銭飲食されてたまるか…
退散願おうにも、身体の自由が利かないものだから仕方なく強制退去してもらった。
直ぐ近くまで枝を伸ばしているヤマボウシの葉っぱの上に指ではじいてやった。
…後のことはどうなったか知らない。
知らないが、太陽が上がるにしたがって体温も上がれば、再び自由に動き回れるようになるだろう。
晩秋の冷え込んだ朝の珍事である。
この直線と鋭角に違和感を感じていなければ、多分見逃してしまっていただろう
身体はまったく苗と同化してしまっている
こうして背景を白くして見ても体は苗に同化しているが、脚はやはり目立つ…
やっぱりどこから見ても後ろ脚さえなければ苗の一部にしか見えない
育苗中の3種のうちの「キューティーアプリコット」
花の色は単一ではなく、様々に変化する
一斉に咲き出すと株ごとに様々な色合いが現れ、しかも咲き始めからどんどん色合いが変化していき、長く楽しめる
(写真はさかたのタネホームページから拝借)