平方録

イワシとアユの稚魚たちを称える

元旦から続いている相模湾のシラス漁の禁漁期間も残すところひと月となった。

あのピッチピチで透き通る小さな魚体の塊を口に含んでかみしめ、甘さを感じつつ日本酒と一緒にのどの奥に送り込む至福の時が来るのも、さほど遠くないという訳だ。
去年の漁獲は良くなかったと聞いている。
実際、網元まで買いに出かけても「本日不漁」の看板を目にすることが多く、すごすごと帰ってきたものだ。
沖合を流れる黒潮の大蛇行が今年になっても続いているというから心配なことではある。

初モノとか旬という単語に弱いのだ。
この2つの単語のどちらかでも目にすると、なかなか素通りというものが出来にくくなるし、実際手に入れて口にしてみるとこれは期待にたがわずとても美味で、2つの概念を作り上げ、大切にしてきた日本人にわが身もよくぞ生まれけりという思いを強くするのである。
そういう意味でも、ひと月後の3月11日のシラスの禁漁開けが待ち遠しい。

シラスでふと思い出したのだが、3月に入ると相模湾の全域かどうかは分からないが、少なくとも大きな川が流れ込んでいる河口近くではアユの稚魚がたくさん群れを成す。
どうやらアユの稚魚は孵化するといったん海に出て海の中のプランクトンなどを食べて成長するようである。
清流の女王と言われる香魚も、いわば海をゆりかごにして一定期間育つらしいのだ。

で、そのことを実感する時がやってきた。
今から30年も前の話だ。当時は手慰みに時々遊漁船に乗ってアジやサバを釣っていたのだ。
ある日、釣具屋に出かけたらサビキという仕掛けを買っている人が「ぼちぼちだよね」と店員と話しているのを小耳にはさみ、聞いてみるとアユの稚魚が釣れるんだという。

早速買って、教えられたとおり、朝の腰越漁港の防波堤の中の船溜まりにそのサビキを垂らすと、これはもう面白いようにサビキを餌と間違えて食いついてくるのを釣り上げるのだ。
驚いたのは空中に引き上げられた体長5、6センチの魚体が朝日に照らされて何と緑色に輝くのである。緑は濃い緑である。
緑色と銀色が体をくねらせて朝日に輝くのだ!
成長したアユも確かに緑色の衣をまとっている。センダンは双葉よりも……か。確かにアユもまた芳しい。

釣ったアユの稚魚はテンプラかフライにしてそのまま丸ごと食ったが、格段に味が良かったという記憶はない。
だからか、成長してから食べればいいやと思ったか、稚魚釣りはすぐにやめてしまった。
ただ、緑色と銀色の小さな魚体が真っ白に化粧した富士山の頂辺りに踊り輝くさまはとても美しく、あの光景を知る人は限られた人だけなんだなぁと思うと妙に懐かしい。

春はもうすぐそこまでやって来ている。



3週間ぶりの円覚寺ではウメの花が良く咲いていた
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