冬の間中、ベッドに潜り込んだままでも見えていた日の出はこの頃を境に、真東に移っていくため見えなくなってしまう。
これから夏至に至り、再び秋分を過ぎて戻ってくるまで、太陽が昇る位置は隠れたままである。
これからは日がずんずん伸びてゆく。
暑さ寒さも彼岸まで、というからもう寒の戻りのような事はあるまいと思のだが、さっそく24日辺りの最高気温は10度くらいだろうと、天気予報はつれない。しかし、春分が過ぎても寒の戻りがあるのは毎年のことで、通過儀礼なのである。
毎年よ彼岸の入りに寒いのは 子規
妻が外出するというので、夕飯の支度を買って出て、いそいそと隣町の丸ものの魚をずらりと並べている魚屋を覗いてみた。
この店は東海道線のホームのすぐ脇のビルの地下にあって、界隈の飲み屋が客に供する魚を買いに来たりしている店である。安くて新鮮で活きが良く、威勢も良い。典型的な魚屋である。
午前中に覗くことなど初めてだが、魚種も豊富にそろっているに違いない、三文の得になるやもしれぬ、と出掛けて見たのである。
丸々と太った大葉イワシやサバに触手を動かされ、あれやこれやと目移りさせられたが、買ったのは三陸は宮城県産の天然ホタテと大阪湾のサヨリ。
店の若い衆が「甘いよ! うまいよ! 天然だよ!」と声を張り上げていたので、思わずホタテにぐらついてしまった。
サヨリは地元相模湾産のものを待ちわびていて、漁港にも足を運んで注意しているのだが、一向にその気配がない。
大阪湾とはなじみが薄いが、銀色に輝く鉛筆のような魚体を眺めているうちに、ま、これでもいっか! と初物として求めてきた。
天然ホタテは貝柱を刺身で、内臓はバターで軽く炒めて隠し味程度にちょっぴり醤油を差して食べてみた。
店の若い衆の言うとおりである。確かに甘かった。大振りのホタテで、宮城の海もだいぶ回復してきているようなのが喜ばしい。
サヨリで捨てたのは内臓と頭だけ。
骨は油で揚げて骨せんべいにした。刺身にするために引いた皮は竹串に巻いて軽く塩を振ってガスコンロの火に炙って食べる。
皮の竹串巻は気の効いたすし屋ならサヨリを注文すると作ってくれる。酒の肴にぴったりでオツなのだ。すし屋で出されれば、ひと手間かけてくれたことが、また嬉しいのである。
サヨリの刺し身はそもそも、ものすごく美味しいというものではないが、季節を食べるのだと思えば良いのだ。
あの透きとおるような身と味の淡白さは、やはり春先のものだろう。
8匹全部を刺し身では能がないから、半分を昆布締めにしてみた。
こうするとサヨリに限らず、水分が抜ける代わりに昆布の味が移って独特のうまみが出る。
案の定、2時間程度締めただけだが、色もちょっとあめ色に変わり、日本酒にピッタリの味に仕上がっている。
菜の花のお浸しも用意したし、細かく刻んだ茎ワカメの歯ごたえと粘りも良かった。
春分の日の食卓としては、上出来である。
円覚寺佛日庵のモクレンの巨木が満開を迎えている
佛日庵の反対側の斜面に咲くショカッサイ
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