平方録

ゆく河の流れは絶えずして…

わが家から歩いて14、5分のところにあった行きつけの焼き鳥屋が消えた。

行きつけといってもこの半年ほどはご無沙汰していたので、その間に様々な事情があって店を閉じたんだろうと思う。
その兆候は半年より前からあって、オリジナルで人気があった「つくね」を出していたのが、いつ行っても食べられなくなり、挙句の果てには焼き鳥屋のくせに用意していない種類があったりしてシラケさせられていたのだ。
店の亭主はボクより5つくらい年上だから、確かに隠居するのに不足はない年齢である。

もう10年くらい前になるのだろうか、ボクが出社しようと朝、最寄り駅に行くと改札口からよれよれに酔っぱらった、うつろな目をした亭主が下り電車から降りてきてすれ違ったことが何度もあった。
その後しばらくして分かったことだが、後を継いだ息子が休みの日に飲みに出かけた街で突然死してしまったそうだ。
「テレビドラマと一緒でしたよ。横浜の警察署の霊安室のようなところに白い布を掛けられて寝かされていましてね、その布の端をそぉ~っとめくってね、顔を確かめて……『間違いありません』ってネ」

1人息子で、まだ30代の働き盛り。親爺の跡を継いで店を切り盛りし始めたところだったという。
口をきいたことはなかったが、黙々と焼き台の前で焼き鳥を焼いていた姿を覚えている。
BSTBSの「酒場放浪記」にも登場していて、その時は亭主が前面に出て吉田類とやり取りしていたが、その画面にも背の高い息子が映っていた。
よれよれで朝帰りしていたころの話をすると涙をこぼさんばかりで、焼き鳥の上にでも垂らされたら余計に塩味がついてしまいそうでハラハラしたものである。

ここの焼き鳥はつくね以外に皮が美味しかった。
鶏の皮を串にさす作業は面倒なものらしい。
皮が硬くて串が通りにくいんだそうだ。なので、大量に用意するような店は一度湯にくぐらせるんだそうで、そうすると軟らかくなって簡単に串が通るらしい。

しかし、いったん湯にくぐらせた皮からは旨味が逃げてしまい、しかも焼いてもパリッとは焼けない。
これに対してそのまま串に刺すと皮の表面からにじみ出た油がさらに旨味を増し、炭火に垂れて巻き上がる煙がまた皮に絡み、カリッと焦げた食感と相まって絶妙な味を生み出す。
確かにこの店の皮はほかの店とは一味も二味も違った逸品だった。

夏の盛りを迎える少し前だったように思う。交差点で信号待ちをしていたら件の店に横付けされたトラックの荷台めがけて、2階の窓から次々に物が放り投げられている。
ん? と思ってその時は通り過ぎたのだが、その後注意してみてみると、いつもの午後6時の開店時間になっても赤提灯に灯の灯ることはなくなってしまった。
開店前の炭火おこしの時から薩摩焼酎をあおっていた飲んだくれの亭主が今どうなっているのかも知らない。

分かっているのは縄のれんが消えてしまい、交差点で信号待ちするボクらの鼻をくすぐる焼き鳥の匂いとたなびく煙が絶えて久しいということだけである。




秋雨ってのはこんなにうっとおしいものだったっけ


毎日毎日シトシトと…。今年の梅雨は6月にサッサと明けてしまい、こんなにジメジメしていなかった


昨日の朝食のホットサンド。パンは塩分ほとんど無しの自家製
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