真夏だと窓を開け放して海風を招じ入れ、日暮れてなお鳴くようなとぼけた蝉の声を聞きつつ一人でワインを舐めるのも悪くはないが、季節が進んで冷たい雨がそぼ降るような日は侘しいものがある。
とは言え、根菜のたくさん入ったラタトゥユは好物の一つだし、これにフランスパンがあれば赤ワインが美味しくなる。
これだけだって、さしてグルメでもないボクの夕食は成り立つのだが、まるで青虫のようにキャベツが加わり、やげんまであるのだから…
毎日飲むのだから、赤ワインはもちろん安ワインである。
情に竿させば流される…じゃなかった、上を見上げたらキリがない。要は美味いかそうでないかなのだ。それも自分の舌が判断する。安いがゆえに卑しからずでは決してない。
おまけに美味さにだってピンからキリまであるのだ。
何がピンなのか、幸か不幸か最高に美味しいとされるワインの味というものを知らない身には、自分の舌に合いさいすればそれが一番美味しいワインなのだ。
この理屈はどの種類の酒にも当てはまり、そもそも美味しく飲める心とシチュエーションが大事なのであって、値札はこの際関係ないのだ。札束を積みさえすればいいのなら成金だってその日からグルメになれる。
「やげん」もボクの好物の一つで、焼き鳥が好きな呑兵衛なら先刻ご承知だが、鳥の軟骨のことでたいていはこれにわずかな肉片が付いて売られている。
骨のコリコリ感がたまらなくいいし、何てったってカルシウム補給に好都合である。
ちょっぴり肉片が付いているから焼き鳥の気分も味わえる。
1人で家メシの時などはワイン一瓶くらい軽く空っぽにしたものだが、最近はジジイになったと見えてそうもいかなくなった。
ここらあたりは知らず知らずに忍び寄る何とやらなのかしらん、などと思って忸怩たる思いもあるが、美味しく飲めているのだから満足しなくてはと思い直したりして、我ながら案外殊勝ではないかなどと思うのだ。
そろそろ後片付けでもしようかと腰を上げて台所に立つと妻が夜遊びから戻ってきて、何と思いがけずに横浜中華街の中秋月餅を土産に買ってきた。
中国では中秋節に欠かせないお祝いの食べ物として中秋月餅が作られてきていて、この時期になると中華街でもここぞとばかりに売られている。
特徴はアヒルの卵の黄身を塩漬けにしたものを月餅の中に忍ばせ、ナイフで半分に切ればそこに中秋の名月が現れるという風流なお菓子である。
広大な中国では地方によってつくり方は千差万別のようだが、「食は広州にあり」の例えの如く、中華街でも正統派と言われる「聚楽」のものはすべて手作りだそうで、しかも餡がハスの実で出来上がっているのも正統派を裏付けている。
黄身は塩漬けだから甘くないし、ハスの餡もさっぱりした甘さである。
聚楽の中秋月餅はこの時期の3週間くらいしか店頭に並ばない貴重な逸品なのだ。
今年の中秋の名月はきれいに良く見えた。
ワインの残りをグラスに注ぎ直し、思いがけない今年2度目のお月見を楽しんだのだった。
アヒルの卵の黄身が現れる中秋月餅。餡はハスの実で出来ている
円覚寺のススキの穂。鎌倉には大雨警報が出されたけれど、これから午前8時に始まる坐禅会に出かけてくる
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heihoroku
ひろ
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