ベートーベンの交響曲第2番を聞きながら本を読んでいて、ふと顔を上げると窓の外が「オ~ッ ! 」と声が出そうになるくらいの光景に一変していた。
白いものが横殴りに落ちてきている !
それも、まばらに降って来るのではなく比較的密度が濃いから(雪国の人には笑われるかもしれないが、何分珍しさが先に立つもので…)、少し大げさに表現すると白い幕を引いたようにも見える。
「春の雪」だ。
それも初雪。
地上に落ちた雪はすぐに消えて何の痕跡も残さないから、空中に白い幕を引いたような光景の〝幻感〟はひときわ際立つ。
現実離れしてさえいる。
窓ガラスを開けて写真を撮るとき吹き込んできた北東の風の冷たいこと…
たまに見る現実離れした光景は悪いものではないが、寒いのは御免だ。
大急ぎで炬燵に戻って再びシミになる。
朝方聞こえていたウグイスの鳴き声は、さすがになりを潜めている。
CDの「2番」はいつの間にか「4番」に代わっていた。
午前中のこと。
いつもは夕方になって買い物に出かける妻が、珍しく10時前に買い物に出かけた。
マスクが底を尽きかけてきたのでドラッグストアの様子を偵察してくるという。
案の定、空振り。
開店1時間前から並んでいた人はかろうじて手に入れたようだが、それも限られた人数にしか行き渡らなかったようだ。
しかし、手に入れることができた人がいるだけマシ。
「トイレットペーパーは買えたわ」と少しホッとしていた。
買い物の妻から途中で電話がかかってきた。
「今、酒屋さんだけどやっぱりタケツルはないけどラフロイグならあるわよ。買ってあげましょうか」と言ってきた。
実は午後にでも小遣いをはたいて買いに行こうかと思っていたところだ。
渡りに船…二つ返事で「うん、頼むよ ♪ 」と。
実は10日ほど前からタケツルの瓶は空になったままなのだ。
タッチの差で店に残っていた最後の1本を買い逃し、運も尽きたか…ならば、しばし悲哀を味わおうかと、空瓶をパソコンの脇に置いたままにしていた。
起き抜けに書くブログは時々〝気付け薬〟が必要で、グラスに並々注いだ琥珀の液体をクイッと飲むのではなく、小さな小さなショットグラスにほんの少し入れて、ちびちび舐め舐めして脳ミソを覚醒させる必要があるのだ。
ここ2~3日はどうにも我慢がならなくて、仕方なく赤ワインをグラスに注いでいたのだが、あれは度数が低いからとても気付け薬の代用にはならない。
単なるだらしないアル中患者に堕してしまう。
朝っぱらから、パソコンの脇に放置されたワイングラスの片づけを余儀なくさせられていた妻が見かねたのだと思う。
まっ、以心伝心ってやつだね ♪
長いこと一緒に暮らしているからね。持つべきものは…ってところ。
でも、買ってきてもらったのに、昨日は封を切らなかった。
我慢できるところを見せようとしたのと、気付け薬は差し迫って気付けが必要な時に封を切るという掟と言うか、自分なりのしきたりと言うか、けじめと言うか…言い訳じみてるかもしれないけれど、そういう区切りをつけたつもりなのだ。
で、さっそく今朝、封を切りましたよ。
トクトクトク…
いいなぁ、この音。
小さなグラスだけれど、そこに注がれた琥珀色の液体から香り立つかすかなヨードチンキ ?! の匂い。
ヨードは磯の香りでもある。
この酒の好き嫌いがはっきり分かれる独特の香り…♪
雪を眺めている最中に後輩からメールが届いた。
「ツレアイを見送った。身内だけですべて終えた。お酒が飲みたいけど、コロナが鎮まったらお願いします」
とりあえずの返信だけはしておいたが、まだ肉声は聞いていない。
闘病が続いていて看病に心と身を砕いていたのは知っていた。
心中は察して余りある。
コロナめ !
春の雪(2020.03.14 14:57)