直前までサンルームのようになった部屋の、しかもガラス戸際の椅子に腰かけて燦燦と降り注ぐ太陽の光に包まれながら新聞を読んでいたから錯誤があったのかもしれない。
そこは気を付けたつもりで、2度ほどガラス戸を開けてベランダに出て外の温度や風向きや強さを確かめたはずだった。
そして得た結論が(前日の)8~9mの風は論外だったが、今吹いている(予報で4~5m)程度ならなんとかなりそうだと考えた。
何よりも空気が住み切っていて、この冬の間に一度も見たこともなかったような透き通った青空が広がっていたこと、その澄み切った空から降り注ぐ太陽に、これまた澄み切った明るい日の光に「もう春そのものじゃん♪」と思うとともに、「こういう素晴らしい日に外に出ない選択肢はないだろう」という内なる声に突き動かされたのだった。
短パンで太ももを晒して自転車を漕ぐという選択肢は端から放棄し、午前10時を回ったころ、軽めのダウンを着込んで家を出たのだった。
わが家の前は下り坂である。
坂を下り切ると200mくらいの北に向かって一直線に伸びる道路を走ることになる。
この直線道路に出た途端、家を出て来たことを後悔し、よっぽど尻尾を巻いて家に戻ろうかと思った。
まず、自転車が吹き付ける北風に阻まれて速度が出ない。
全身に力を入れて漕ぎ続け、わき道に折れてやっと一息つくありさまで、漕ぎ始めたばかりなのにと前途が思いやられた。
そして、冬の間にも経験したことがないくらい、吹き付ける風が冷たいこと。「寒い」んじゃなくて、痛いほど冷たい!
北風の風速が5mあったとして、自転車が時速20kmで走った場合、時速20kmは秒速5.5mほどだから、風速5mと足した「10.5mの向かい風」の中を漕ぐのと同じということになる。
10.5mは大人しく家にいた8~9mの風が吹いた日よりも強い風である。
おまけに気温は10℃そこそこ。冗談じゃない。
苦行僧じゃあるまいし、柔らかな春の日差しを浴びてのんびりといつものテリトリー内をパトロールしてこようと思っただけなのに…
結局、意地もあって、せめて江ノ島まで漕いで富士山を眺め、海の色でも見てこようという気になる。
2時間足らずだが、江ノ島近辺の海辺をうろうろして戻って来た時には、身体は芯から冷え切っている感じで、熱い風呂にでも浸かりたい気分だったが、暖房を効かせた部屋でショーチューのお湯割りでお腹の中からも温めたら、ようやく人心地がついたのだった。
彼岸の中日も過ぎたっていうのに…
冷え切っていたせいか、空気はとても澄んでいて富士山の見え方がいつもとは違っていた
丹沢山塊と富士山
明るい光が空に吸い込まれてっしまっている分、海はいつもと違って暗めの色をしていた
片瀬漁港の赤灯台