最大限大きくなってきたな、だいぶ近づいたなと思っていると、通り過ぎていくものとばかり思っていたサイレンの音がぱたりと止む。
ん?!
よくよく耳を凝らすとサイレンの音は単一ではない。甲高くピーポー、ピーポーと鳴らすのは救急車だろう。比較的耳慣れている音色である。
さらに聞こえてきたのはウー、ウーというちょっと重たいような感じのサイレンである。
あえていうと、甲高いウーとそうでないウーがあり、甲高い方がパトカーらしい。となるともう一つのウーは消防車である。
午前11時を少し回ったばかりの雨の土曜日である。
普段なら小鳥の囀る声くらいしか音は聞こえてこないくらいに静かなところなのだが、1度に3種類ものサイレン音が鳴り響き、それが近づいてきたと思ったらぴたりと止んでしまうのである。
誰だって「現場は近所か!」と不安な気持ちにさせられたはずである。
わが家でも2階の部屋で習字の練習をしていた妻がいち早くベランダに出て辺りを伺っている。ボクもそれにやや遅れて階下の居間から新聞を放り出してベランダに出てみる。
しかし、煙の臭いはしないし、煙っているのは雨の方で、どうも火事ではなさそうである。
ということになると何事が起ったのか、確かめる必要があるというものである。
「おっとりがたなでとびだしてみると」という表現を使うと、高校生辺りでは半分くらいの生徒が「おっとり」を「おっとりした性格」などと同じように「のんびりと」という使い方と同じだと間違えて解釈するようだが、正しくは「押っ取り刀」と書くように、「刀をわしづかみにして慌てて出ていく様子」を指して言う表現である。
脱線したが、昔取った杵柄(ムカシトッタキネヅカ)というのか、ボクも押っ取り刀でスマホと傘をわしづかみにして飛び出したんである。
現場はわが家から100メートルくらい離れた小型バスの通る道に面した住宅だということがすぐに分かった。
この家の付近を中心に救急車2台、パトカー1台、消防車4、5台が集結している。
しかし、近づいても煙の臭いはしないし、規制線も張られていない。消防士が右往左往しているがホースを伸ばすわけでもないから、やはり火事ではないのだ。
ガス漏れならガス会社の車がいるだろうし、様子が今一つ吞み込めないのだ。
で、規制線もないのだから現場付近は自由に動き回れるわけで、反対側に回ってみて事情が呑み込めた。
ワンボックスのワゴン車が隣家との境のフェンスをなぎ倒し、3メートルほど下の隣家の庭に車体を横向きにして落下していたんである。
思ってもいない落とし物をされた家の庭の奥には赤いプリウスが止まっていたが、ほんのわずかの差で無事だったようである。
家本体との差も1、2メートル離れていてこれも無事。
ワゴン車に乗っていたのは2人で、救急車の中で事情を聴かれているが、駆け付けた救急隊員によって助け出されたが、かすり傷程度だという。これは、本署への警察官の無線通話を脇で聞いていたので確かだろう。
雨が降っていなければポカポカ陽気に誘われて子どもが庭で遊んでいるか、親が庭の手入れをする時間帯である。
そんなところに車が降ってきたんではたまったものではないが、まずは二次災害には至らなかったというわけである。
それにしても、年老いたドライバーが良く引き起こすアクセルとブレーキの踏み間違いだろうか。
そろそろと遅い速度でバックスするなら、たとえ後輪を踏み外したとしても、直ちに3メートル下までは落ちっこない。
それがきれいにダイビングしているのだから、それなりの速度でバックしたものと思われる。
免許返上ですな。年貢の納め時だね。
ボクの車にはゆっくりしかバックできない安全装置がついているので、まずこのような事故を起こすことにはならないと思うが、自動ブレーキにしても、今や必須の装置になってきているんじゃないかしらん。
免許返上は究極の目標として、その前段では高齢社会にふさわしい車というのも必要なようである。
落下した銀色のワンボックス車は手前の赤い車に乗り上げて止まっているように見えるが、別なものに引っかかって止まったらしくて赤い車は無事
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