平方録

獅子舞の谷の振舞?!

わが街の隠れた紅葉の名所「獅子舞の谷」。
例年だと見ごろの12月初旬にイチョウの黄色とモミジの赤とが重なり合って錦秋の谷を織り成しているのだが、今年はどうした風の吹き回しかイチョウの色づきが早く、10日から1週間も早かったモミジでさえ追いつく暇もあらばこそのちぐはぐぶりという異常さであった。

まだ40代のころ、天園ハイキングコースから偶然にも錦秋真っ盛りのこの谷に下りてきて、西に傾いた日に透かして眺めた紅葉と黄葉の美しさに息を吞んだのがこの谷の存在を知った最初だが、その当時はまだ紅葉の名所などと言う特別扱いは受けておらず、紅葉狩りにやってくる人だってほとんど見かけなかったのだ。
それが今ではポスターが作られたり雑誌の類でも紹介されたりしたものだから、3日前の日曜日に坐禅の帰りに寄ったところ、ゾロゾロと谷に向かって歩く人々の行列を見てびっくり仰天した。
そういうところなのである。

大塔宮の脇に沿って歩いていくとやがて人家がまばらになり、谷から湧き出る水を集めた流れが少し太りかける辺りに差し掛かると、そこはもう深山幽谷の佇まいと言ってよく、信じれれないような別世界に到るのである。
知らない街で角を曲がったら全く違う表情の景色が広がっていたなんてことがあるけれど、ここでも折れ曲がった道の先で突如場面が変るんである。そういうシチュエーションの場所なのだ。

流れ落ちてくる細い水流にぬかるんだ道はうねうねと上ってゆき、やがて色づいた葉が見え隠れする辺りに差し掛かるところでボクは妙な立て看板に気づき、しばらく立ち止まることになる。
立ち止まったのはボクだけで、前を行く人々も、ボクを追い越して行く人々も立て看板の存在には気づかない風でもあるのだ。無視と言ってもいいかもしれない。
看板の高さは1・5メートルくらいあり、道端に掲げてあるから否が応でも目に入るのだが…

看板には地元の役場と警察署の名が記されているから、その筋が設置したものであることが分かる。その筋のお達しなのだ。
赤地に白く「注意」と染め抜かれた文字の下に、一本の道が2本に分かれる図が描かれ「右 私道」「左 市道」と書かれているのだ。
別に「私道」と「市道」という名前の付いた名所・旧跡の類があることを知らせる案内板ではない。その証拠に「この先私道につき通行注意」と添え書きされている。
忖度するに「通行注意」は右は人サマの土地だから遠慮するように! という風に読んでくださいねという設置者の意思がくみ取れる看板なのである。

ここでボクはフ~ンと一つ深いため息をつく。
紅葉を愛でにやってくる人々に私道と市道の区別をしろと言うのかい、もし真剣にそう思っているのなら交通整理員でも置いたらどうよ、人件費がかかると言うなら柵でもフェンスでも巡らせて通せんぼしたらどうなのサ—―などと悪態の一つもつきたくなる。

天園から下って来る道筋にはこの立て看板は見当たらない。
現にほぼひと月前には、この二股に道が分かれるところでボクは「私道」を通って下ったのだ。もちろん道が二つに分かれていたのは知っているが、それぞれが法的にも種類が違う2種類の道だという意識はなかったし、道に色が付いているわけでもなかったから、そんな区別があることなど知りもしなかったのだ。
道を埋め尽くして落ちているギンナンの実なんか、臭くて拾って帰るわけがない。

いったい何のための立て看板なんだろうか。
土地の所有者と看板設置者との間に何があったのかなんてことに興味もないし、詮索なんて馬鹿らしいことをする気もさらさらないが、ともかく世の中には妙ちくりんなことがあるものである。
この場合、看板に足を止めたボクの対応より、端から無視して通って行った人たちの振舞の方が正解なんである。

何せここは獅子舞の谷なんである。ン? お呼びでない。こりゃまた失礼いたしましたぁ~。

それにしても今朝は寒かった! 午前5時過ぎの外気温は2・3度。北国の人には笑われるだろうけど、キリキリっとした寒さだった。寒くなるのが早すぎて先が思いやられる。




獅子舞の谷に置かれた立て看板









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