汗みどろになって中華街の行きつけの店のドアを開けると、華僑の親父がびっくりしたような顔をしてこちらを凝視した。
すぐに言葉が出てこないようで、両目を見開いたまま言葉も発せずに突っ立っている。
「やあ、久しぶり」
そういってもすぐには反応がなく、久しぶりだったので機嫌でも損ねているのかと思ったが、そうでもないようで突如「〇〇さん、足はあるか? 見せてくれ」と真面目な顔でボクの足元をしげしげと見るそぶりをした。
こういう部分の感情の表し方というのは日本人とは明らかに違っているところで、露骨というか大げさである。
聞けば4日前の火曜日の昼に男ばかり4人組の来店があり、そのうちの一人が親父にボクの消息を尋ね「一同で〇〇さんの話をして盛り上がったばかり」なのだという。
ボクをよく知る人物らしく、しかも同じマスコミ業界の人物だということが話の端々で分かった。
親父がいい加減なので社名は特定できなかったが心当たりはあり、ボクがこの店を紹介した経済紙のT君だろうと見当がついた。
「ホントにあなた方の業界の人たちは昼間からよく飲むね」と親父が驚くほど紹興酒を呑んだらしい。
そして翌日が定休日なので家で食べようと準備していた鶏手羽の料理をふるまったところ「これはなんだ?メニューのどれか?」と聞かれたので自分で食べるために作ったものだと答えると、一層感激して喜んで食べ、満足して「〇〇さんが来たらよろしく伝えてくれ」と言い残して帰っていったんだという。
こうした普通の客とは一味違った客が残していった残像が色濃く残っているところに、まさに張本人が現れたのだから親父が驚くのも無理はない。
幽霊じゃないかと足元を確かめられたのも無理からぬところではある。
この日の横浜は最高気温が35.6℃の猛暑日。暑かったわけだ。
3か月に一度横浜駅前の眼科に通っていて、昨日はまさにその診察日だったのだが、午前11:00前に診察を終え、横浜港とみなとみらいのビル群の前に立った時、「よしっ!中華街まで歩こう♪」という気になり「ミナトの水際線に沿っていけば暑さもそれほどでもないだろう」と炎天の中に飛び込んだのだった。
しかし、この考えは浅知恵で、ミナトには確かに海風が吹いていたものの、コンクリートやアスファルト舗装の照り返しによる熱波は想像以上で、閉口させられた。
海風はさわやかに吹いていたのだが、地上付近の熱波に触れたとたん、さわやかな海風そのものが瞬時に沸騰してしまうのではと思わせるくらい、地表付近の暑いこと暑いこと…
鎌倉では味わったことがない熱波熱風というものを改めて認識し、いささかびっくりさせられた〝気まぐれ散歩〟でありました。
10:46 横浜駅東口のビルのペデストリアンデッキに出て外の空気に触れたとたん「よしっ!歩こう」という気になった
半袖のポロシャツ1枚に短パン、スニーカーの軽装だし、キャップをかぶり濃い目のサングラスをして麦茶のペットボトルを手にもって軽やかに出発したのでありました♪
日産本社ビルのどてっ腹を抜け、海に向かって歩くとアンパンマンミュージアムができていた
わが孫がアンパンマンに夢中だったころのミュージアムは根岸線沿いのこじんまりしたものだったが、ずいぶんと立派なものが建った
このあたりでビル群は尽き、ここから先は港エリアが広がる
目の前にベイブリッジがそびえる臨港パークに到着
陸側のスカイラインを眺めつつ、まだこのころは海風にさわやかさを感じていた
水際線に沿ってはるか先まで歩く …すると、この先の風景にいつもとは違ったものが写っているのに気づく
広々とした港内を吹き抜ける風は当然のことながらさわやか
何やら暑苦しそうな光景が… 日本青年会議所主催の防災や子育てなど暮らしに直結する事柄に関する「サマーカンファレンス2024」という催しが開かれていた(正面の四角いガラス張りの建物は国際会議場)
ステージもしつらえられ、歌声が響いていた
半月状の形をしたホテルの脇を抜け、ずんずん歩く…と言いたいところだが、このあたりから足が重くなりだす
昭和天皇の奥方の香淳皇后が「ララの品つまれたる見て とつ国のあつき心に涙こぼしつ」などと詠んだ歌を刻んだ碑が新港ふ頭にある
…と書かれていて、悪評ふんぷんだった給食の脱脂粉乳を飲んでボクらは大きくなった
いつもの光景の中に違和感を感じた…と書いたのは、この巨大な船の一部が見えていたから
巨大客船を背景に赤レンガ倉庫一帯では音楽イベントが開かれ、大音量が響いていた
「MUROフェスティバル」という音楽イベントらしい 入場料は1日券で8800円するらしいが、若い人たちでごった返していた
ボクは船を見ているほうがいい
ダイヤモンド・プリンセス 11万5875トン イギリス船籍の日本発着のクルーズ客船 フネは2004年に長崎の造船所で建造されている
日本大通の奥にちらっと見えるのが横浜ベイスターズの本拠地・横浜スタジアム
船というものは後姿が良くない
巨大客船が停泊している大桟橋につながる道路は人と車で込み合っていた
普段は人通りもまばらなところだけに、大さん橋で何かイベントが開かれていたのかもしれない
大さん橋の付け根付近 ペリーが上陸したのはこのあたりだと伝えられている
山下公園にはひまわり畑が出現していた ひまわりと一緒に撮影されたベイブリッジの姿はレアものだと思う
このあたりまで来ると日影が欲しくて、山下公園のヘリと道路の間の銀杏並木に沿った歩道を歩く 中華街まではあと少しだ
もともとこの歩道は好きな道で中学生のころからよく歩いた
昔、このあたりにアメリカ領事館に付属したアメリカ文化センターというレンガ造りの瀟洒な洋館があった
その前の道路に停めてあった車に興味を覚えて近寄ってしげしげ見ていると、建物の中から中年の女性が出てきて「ポンティアック」だと教えてくれた
車の名前はエンブレムを読んでポンティアックだと分かっていたが、サンキューと答えておいた
それにしてもわざわざ外まで出てきて声をかけるという行為に、親切心というより、いたずらされるかと思ったのかもしれないなとふと思った
それで、その女性の腕を見ると毛むくじゃらでびっくりしてじっと視線を据えると、分かったらしく、慌てて掌で腕を覆い隠すようにして建物の中に入って行ってしまった
この道を通ると、時々あの夏のあの時の光景を思い出す
土日の昼下がりなどは人で埋まって満足に歩けないほど込み合う「中華街本通り」だが、人出は大したことはなかった
さすがの人気スポット中華街もこの夏の酷暑にはかなわないのか…