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外国語

私が一番早く覚えた外国語はなんだろう? 恐らくは外来語だと思うが、それ以外ならまず間違いないのがローハイドの歌であろう。意味も判らずローレン、ローレンとやっていた。中学に入り、英語が必修になった。英語教師の半数はネイティヴという恵まれた環境にあったにもかかわらず、もっとも苦手な科目の一つが英語であった。

会社に入ると研究部門では海外からの部品でテストをするのは日常であり、営業経由の入手は時間がかかり過ぎで仕事にならず、いきおいデタラメ英語のファックスと電話で直接仕事をしていた。ある日4台発注したオートバイの納期を煽ったら、何を勘違いされたのか、後日8台も届き、泡を食って引き取り手を捜した。多くても遅れるよりはましだ。この頃は『英語は気合だ!』と信じていた。

20年ほど前、ドイツに住んでいた時があった。妻の顔の一部、正確には右耳の下からあごの付け根にかけてが腫れだした。かかりつけのホームドクターの手には負えず、専門医を紹介された。妻がかなり不安がっているのを感じたドクターは翌日、私一人で病院に来いと言った。朝、妻には内緒で会いに行ったのだが、困ったことにこの御仁の英語は私より少し上手なだけだった。つまり複雑な会話には使わない方がお互いの為というレベルなのだ。彼ははしきりに何かをチェックしないと詳しいことは言えないが、かなり危険な兆候だと言っていた。

それまでは、ちょっとしたことでも大学病院に行っており、そこの医者がしゃべる英語はネイティブ並みに上手かった。病院で苦労しなかったのは、上手な英語で判りやすい説明をしてくれていたからであったことに私は気付いた。そして不安が募る中、不毛な会話はお互いを苛立たせた。『ボーン マロー、判るか?』不幸なことにイラ付いていた私にその言葉は初めてのものではなく、私の頭にはオーヴンで焼かれた骨髄にカリカリのトーストを添えた一皿が頭に浮かんだ。間髪を入れず『ワシ、大好物やで!』と答えてしまったのだが料理の話になるわけが無いこと位、ちょっと考えれば判る。

『お前、本当に英語が判るのか?』 それから彼の顔つきは疑いを持った目付きに変わった。そうか、英語をしゃべらすからイカンのだ。独和辞典を持ってきたことを思い出し、ドクターに検査内容をドイツ語で教えてもらった。『バイオプシ、今度は判ったな』と勝ち誇った顔のドクターが表情を変えるのに時間は要らなかった。

な、なんやこれ??・・辞書にはたった2字『生検』としか書かれていなかった。首をひねる私にドクターは追い討ちを掛けてきた。『何が判らん? 』・・・・『ヤパーニッシュ(日本語が)』と小さい声で呟いた私。私を見るドクターの目は劣等生から真のアホを見る目つきに変わった。帰って国語辞典を引いた。『生検:生体から細胞・組織を外科的に切り取ったり針を刺して取ったりして調べ、病気の診断を行う方法。バイオプシー』。 世の中には気合だけでどうにもならんことがあるのだ。
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