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愛しのペペロンチーノ

1985年の今頃、筆者はドイツへの駐在が決まっていた。勤め先は研究所の出先であり、2輪部門からデザイナーとエンジニアが数名既に4月の開所から異動していたが、総務・会計・管理系の担当がいないということで筆者が駆り出されたようだ。

当初、総務か会計から出すのでお前は第三候補だが行くつもりはあるかと聞かれた。まず外れると踏んだこともあり『アフリカでもイスカンダルでも行けと言われたらどこでも行きます』と返事をしておいた。異動でゴネられることが多い上司は『そうか、そうか』と喜んでいたが・・・多分、イスカンダルは知らんな(笑)。

翌日、通りかかった上司に『あの件な、お前に決まったぞ』と突然言われる。いい加減な人事で知られる我が社でも流石にこれはない。『第三候補と言ってたでしょ!』と詰め寄ると『いやぁ、F津所長の鶴の一声でな』なんと海外駐在経験の豊富な所長が海外は突発問題の連続であるからして、定例業務の人間じゃ無理。ドタバタが得意なお前の(筆者の上司)課から出せと言われたそうだ。どーゆー課だ?ウチは??

まだ法人ではなく代表事務所であったが、業務内容には各現地法人(Genpoは社内英語であった)との調整があり、エンジニアたちは欧州中に出かけていた。イタリアにはブーツでいうとふくら脛とアキレス腱の間辺りにあるアテッサという所に2輪工場があった。ここに出かける度に同僚は麦を抱いたねーちゃんマークの地元スパゲティを土産に買って帰ってくれた。

後年、日本でもよく見かけるようになるディ・チェコというメーカーなのだが、自社製も売っている日清が輸入元のため、現在は法外な値段になっている。仲の良かった同僚のK次郎が『工場近くのレストランでニンニクと唐辛子だけのスパゲティーがあるけど、美味いんだぜ』と教えてもらう。今や日本でも有名なアーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ(aglio, olio e peperoncino)だ。イタリア人の発音だとアーリョオーリョ・ペペロンチーノと聞こえる。

会社のあったフランクフルトの隣、オッフェンバッハのイタリー料理店でも良く作ってもらった。チーズ好きな筆者は『これにチーズはかけるものではない』とウェイターに言われても、平気でオーダーしてかけていたが外国人特権で許してくれていたんだろうな。ごめんね、シェフ(笑)。今考えたら田舎もんの所業ですな。

本来はスープ代わりのスパゲティー、少量だったのを『もっと大盛りに』と行く度に頼み、最後は巨大な食いもんになっていた。小食の上司がこの大盛りを頼み『だめだ、多過ぎる』と残そうとしたので、彼以外の全員が『毎回、大盛りを注文し、やっとサービスでこのサイズになったのに・・・残されたら次回から量が減るじゃないか』と攻め立てた(笑)。

無理やり完食させたお陰で、後日イタリアンへ行く度に『お前らが煽るから、翌日まで飯が食えなかった』と毎回こぼされる羽目に陥った。まぁ、普段このワガママ上司の思い付きに毎回振り回されていた我々の軽い意趣返しであったのだが(笑)。
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