一葉は春になると、桜を綴った。
幼少時代、父も長兄も健在であったころ住んでいた本郷赤門前の家には、大きな山桜の木があった。
一葉は「桜木の宿」と名付けていた。花は池の鯉に雪のように降り積もったという。
本郷赤門の真正面に路地があり、四、五十歩も行くか行かないところ、奥まった辺りに、法真寺というお寺がある。そのお寺の東隣、現在は駐車場になっているが、そこに一葉が四歳から九歳まで暮らした「桜木の宿」があった。
一葉は、紅葉は観に行かなかったが、原稿の執筆に追われていても、明日の生活費が心許なかろうとも、桜は観に行った。
ある年のこと、妹のクニと連れだって、上野の桜を観にゆく。上野の桜は幼い時に、父と桜を観に来たところである。
一葉は、更に足を延ばして墨堤の桜を観に行こうと人力車を雇う。人力車を北十間川の枕橋で降りると、二人は墨堤をそぞろ歩きながら、三回神社まで行った。
そして長命寺の桜餅を母の土産にと買い、妹クニにそれを待たせているのだ。
それから、一葉は、友人の田中みの子と会い、隅田川のレガッタの観戦をするのである。
一葉は、生活に窮し、職業作家を目指した人である。
一葉の日記を読むと、貧乏と貧困は、違うのだと、つくづくと思うのだった。
『一葉の四季』森まゆみ 著 岩波新書
森まゆみの、一葉についての書籍は、幾冊かあるが、その中でもこの本はわかりやすく、非常に良く一葉という人間の思いや生き方が理解できる。私にとって、とても勉強になった一冊である。
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