私は、おおよそ40年前ぐらい、給料をはたいて内田百の全作品の全集を、一気にごっそり買った。
毎日、仕事を終えて帰宅すると、私はそのごっそり百を、黙々と、読んだ。
百の、あの独特の社会とか権威とかに迎合しない、阿保っぽい我が儘っぷりというか、エスプリっぽさが妙に効いた文章が、とっても面白かったし、こういうのって、1970年中頃かな、あのクソっぽい時代にあって、なんか、いいなぁと思えた。
で、当時、読んだ旺文社版の本は、札幌の自宅にあり、ここにはないので、福武文庫からのデータを拝借する。
私は百の数々ある作品を非常に面白く読んだが、その裡のひとつに、いまだ忘れ得ぬ作品がある。
それは、『王様の背中』という短編九編と中編一編を収めたもので、谷中安規の、美しく凝った版画が各ページに描かれた本である。表紙を開くと、「王様の背中」序(はしがき)と題した文章があって、こんなことが書かれている。
「この本のお話には、教訓はなんにも含まれて居りませんから、皆さんは安心して読んで下さい。どのお話も、ただ読んだ通りに受け取って下さればよろしいのです。」と。
なんと、この文章を内田百が、皮肉たっぷりに綴ってからもなお、いまだ、子どもの本は、教訓、説諭、たっぷりである。
「命」とか「友情」とか。
更に、付け足すと、「繊細さ」とか、「普通ってなに?」とか。
がっかりだよね、百。
あぁ、やだ、やだ。
百が憂い危惧した状況が、今も子どもの本の、売れ筋だわさ。
滅入るなぁ。
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