ケセランパサラン読書記 ーそして私の日々ー

◆ 『煤煙』 森田草平 著  岩波書店

                
           
 漱石門下の森田草平の唯一の傑作『煤煙』。
 昨日に続き、漱石がらみである。
 漱石の、人間関係は、案外、面白い。
 なぜか、どうしようもないほど人間味が感じられる人ばかりなのだ。
 

 森田草平は、故郷に妻子がいたにもかかわらず、平塚らいてふがまだ、“らいてふ”と名乗らぬ本名明(はる)の時代に、恋仲になり、なんと塩原高原で心中事件を起こした。
 森田草平は、懐にピストルを忍ばせ、平塚明と、塩原まで行ったが、実は、平塚明に心中をする気持ちはなかった。
 つまり、ちょっとそのような、そのシナリオを演じてみたかっただけだった。

 しかし、世間は、この事件を放ってはおかなかった。

 それで、世間というか、今で言うマスコミからの追求、それに親族と妻子の怒り、それらから逃れようと、森田草平は、漱石宅に匿ってもらった。
 その時の漱石の見解が、面白い。
 草平に、平塚明はしたたかな女だよと、まぁ、あの女の手玉にされたのだというようなことを、言うのだ。
 
 う〜ん、あの漱石が、妙に女について、読みが深いと、感心する私なのです。
 まっ、そう言えば、美彌子にしても、藤緒にしても、美千代にしても、なかなか、男、手玉にとる系の気配が、満載の女性だものね〜。

 で、草平は教員だった職も失い、かくなる上は、この一件を書くしかあるまいと、漱石が、勧めたのが、『煤煙』なのである。

 昨今の、NHKの朝ドラとかに、ちょいちょい、平塚らいてふの名前が登場する。
 たしかに平塚は、「女はかつて太陽だった」と言ったし、『青鞜』も主宰した。
 まるで、封建社会からの女性解放の騎手のようないわれようをしている。

 しかし、平塚らいてふは、女が太陽から月になったしまった時代に、思うがままに、男を手玉に取れる、したたかで手強い女性であったのだ。
 なんと、頼もしいことだろう!!

 それにしても、NHKの朝ドラで、平塚らいてふを演じる女優さんたちが、この心中事件を、ご存知なのだろうか、なーんて、私は、その誇り高く、知的に、闊達に、平塚らいてふを演じている女優さんたちを観てると、つい頬笑んでしまう。
 私には、漱石が指摘し嫌悪した、そういう芝居がかった計算をする平塚らいてふって、そこが案外、好感度、UPなんだけどなぁ。

 
 日本の女の大半は、太古から、明治時代までは、実におおらかであり、能力もあり、封建性とは無縁な価値観の場所で生きていたということは、案外、知られていない。
 まさに、テレビドラマの悪影響というものである。

 封建システムの閉じ込められていた女性は、人口の四%しかいなかった武士階級の妻ぐらいだけだったかも知れない。


 <追記>
 この森田草平が、丸山福山町で住んだ家が、たまたま樋口一葉の終の棲家になった家だった。
 そのことを知ってか知らでか、草平がその家の写真を撮っていたために、一葉が棲んだ家の様子が、今も、知ることができる。
 まっこと、森田草平のおかげである。

 

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