(5)果たすべき約束
①社会保障の夢を達成する
米国のM.N.カ-タ-とW.G.シップマンは『果たすべき約束』1996の中で、<社会保障の夢>を果たすべき約束として、賦課方式の限界を示しつつ、その達成を「個人社会保障口座」(Personal Social Security Account = PSSA)のアイデアで行うことを提案しています。
これは、企業年金のブァリエ-ションとしての401(k)の個人勘定の先に、社会保障のブァリエ-ションも個人勘定化しようというアイデアです。確定拠出型年金の導入も2001年4月が危ぶまれる日本の現状からすると、かなり前方を走っていることになりますが、エリサ法や401(k)の資産管理等のインフラ整備を考えると、2、30年の先行ということになりましょうか。日本でも、将来このようなアイデアが必要になるかも知れませんが、取敢えずは、足下の確定給付型年金の<果たすべき約束>を確実なものにすることが必要でしょう。
これらの機関投資家は、わが国の銀行を始めとするいわゆる法人投資家とは、本
質的に異なる。これらの機関は時として、「コンデュイ」(導管)と呼ばれるよう
に、決して金融機関の「オウン・マネ-」を自由に投資する投資家ではない。単に
委託者のために効率的な運用を請け負う「パイプ」にすぎず、運用手数料を除けば、
運用資産もその果実もすべてその所有者、あるいは受益者に帰属するのである。機
関投資家の投資マネジャ-は、いわば市民のエ-ジェントあるいはフィデュ-シャ
リ-として、職業的にその金融資産の効率的な運用を請け負っているのである。
井手正介・高橋文郎『株主価値創造革命』
②基金の<果たすべき約束>
「人様のお金」を預かる厚生年金基金の使命は、厚生年金基金の利害関係者に対してローコスト・ハイリターンな還元を行うことです。これを制度設立に際して、企業と労働サイドは基金に達成させるべく基金を設立申請したのであり、加入員等にはそれを約束したのでありきす。そもそもの始まりは、基金が自ら申請したのではありません。あくまでも設立発起人は企業であり労働サイドです。基金は負託を受けただけです。企業と労働サイドはローコスト・ハイリターンな還元が行われない場合にはそれを基金に督励する権利は保持しますが、加入員等に対しては基金を通じて一定基準の給付を約束したのですから<果たすべき約束>があるということです。
負託を受けた基金はと言えば、これを達成するために、積立金の原資産保全と効率的な資産運用により時価資産の極大化を求められることになります。まず始めに求められることは原資産保全の義務です。政治的な干渉を始めとして、大陸法法理による国家賠償法適用に
ロッキィ-ズ物語
10 チ-ムカラ-
-おぅい、ロッキィ-ズ、チョットうるさいぞ。規定すれすれだぞ。
試合は佳境に入り、岐路に立っている。部長、曰く
-応援は、フェアプレ-でやってくれ! 相手チ-ムの誹謗だけはなしだよ。
-自分等のチ-ムの子供達を奮い起たせるのに、うるさいもないもんだ。ナイス
プレ-には当然、相手もこっちもないけれどね。
市の野球大会では、ロッキィ-ズの応援は賑やかである。お母さん方を巻き込ん
で「打て、打て、ドンドン」というのがチ-ムカラ-である。ランナ-を2塁に送
るバント作戦はとらず、ヒットエンドランを多用し、2ランスクイズが好きな好戦
的なチ-ムだ。振って三振はともかく、見逃し三振だけは一斉にどやしつけら
れる。立ち向かわない選手は試合に出してもらえない。
-ぶったたけ、H。集中、集中。
-S! ポイント、まえだぞ! こねるなよ-。
-Y、前足、開くなよ! 大きく構えろ。
-高野コ-チ、レフトをラインぎわに寄せて! 得意でしょ、大声。
-ほかに能がないからねぇ。レフト-! N-! ライン締めろ!
よって有耶無耶にされる危険、規制で失われる得べかれし利益、護送船団方式の無競争によって失われた利益、金融混乱による資産管理会社の倒産による逸失、制度変更による資産そのものの没収、インフレ・デフレによる減価、時価会計下のボラティリティの波に掬われる危険等々、既に経験済みなものから今後発生しますでありましょう、今は名も無き多様なリスクに晒されている中で、原資産の保全が求められることになります。併せて、効率的な資産運用を展開し時価資産の極大化を目指すことになります。当然、これには過大なリスクは禁物というのは言うまでもないことですが、これを達成するためには逸失利益が生じないようにし、資本の生産性を向上させなければなりません。
そのためには、たとえば、戦費調達まがいの産業資本集約の金融インフラ(金利の統制・介入、間接金融政策、護送船団方式による銀行行政、銀行の株式保有による流動性の統制、国民の税金を担保にした信用供与体系等)の統制経済的構造と、それを追認する法理体系・財政システム等を刷新していかなければならないのでしょう。
さらに、上記の課題達成のためにも、従来の官中心の一部の人間による恣意的な政策立案というものは、ご免こうむりたいものです。中央集権的財政・行政の裁量手法は、第3セクタ-とか、地方自治とか、審議会方式とかに表面化しているようにもはや機能を終えているのであり、住民投票とかパブリック・コメントとかウェブのホームペーシとかROE・EVA等により切り開かれるものによって新しく構築されていくものなのでしょう。
この社会を「お上」から与えられたものと考えるのか、自分自身の意思でつくり
変えられるものと考えるのか、の問題だと思う。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
三ツ谷 誠「金融資産の行方」
新たな人材育成のため、官民共にゼネラリストの「年次玉突き人事」(日本経済新聞社・春秋・平成12年1月22日)を廃止、せめて10年は同一業務に就労させ、それぞれの場面のプロフェッショナル育成を図るべきでしょう。癒着を懸念という問題は別の問題です。2年で配置換えなどというのは専門性が求められるこれからの世の中では使いものにならないのですからご法度にしてもらいたいものです。先の日経の春秋子の記事によると、国の看板である外交官までもが2年で交代とか、恥ずかしいかぎりです。
これらを成就するには、専門性を確保し、効率性を最大化し、機動性を高め、個人性を追求する等、様々な要請が必要になりましょう。そうして、これを担保するには、新たな統治構造の構築が不可欠となります。しかし、それは、おそらく理念的に構想される類いのものとは違い、足下の徹底的な分析・認識により知り尽くすことがまず求められるでありましょうし、試行錯誤の切磋琢磨によって自から湧き上がって来るようなもの、無知なゼネラリストの「決める」ではなく、多人数の参加と多くの時間に拠って叩かれて丸められるようなものであり、スペシャリストに蓄積された経験からのみ導きだされるような艱難辛苦のすえに僥倖のごとく生み出され「決まる」ものでしょう。
しかし、これまでの状況を見ると、国家にすばらしいプロジェクトを民間よりも
勝って立案できる能力があろうはずもないし、結局、市場の評価を通じて、これを
(例えば株価の値上がりや新規公開の可能性などを)インセンティブとして良いプ
ロジェクトを発案してもらう以外に、日本経済を抜本的に改善する経路はなさそう
です。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
山崎 元「金融資産の行方」
③新たな統治構造の構築
基金の<果たすべき約束>を達成するために必要になるインフラは、多方面、多岐に渡り、とても、一人では、一基金ではカバ-出来ない範囲を対象とすることになりましょう。縦構造から水平構造へ、政策的法理(マクロ政策による統制経済推進のための法理)から純然法理(純然たる「法の支配」が確立された世界)支配によるグランドデザインを統治することになります。新しい時代には日本の伝統的な政治は無能です。とはいいましても、伝統的な<政治>に替わりますもの、未だ命名されていないそれは萌芽として散見しはじめています。
金利ゼロが示すものは「我々はとりあえず行き着いてしまった」という事実では
ないでしょうか。
我々のシステムはもはや何も新しいモノを生まない、生めない、成長しない、ゆ
えに金利がゼロになるのです。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
三ツ谷 誠「低金利の意味するもの」
要は、厚生年金基金の<人様のお金>にどう面接するかということ。そのために、どのような政治・法理・経済・財政・行政・金融等のインフラを整備するかということ。そのためには、一例として、
・哲学・社会学・経済学
・法制・行政・財政システム
・直接金融市場システム
・年金法
・受託者責任
・国際会計
・数理
・老後資金調達制度
・資産運用基本方針
・資産配分方法
・リスク管理手法
・運用機関評価方式
等々を網羅した一国の文化全体を形成するような膨大なインフラ(総合科学という人もいる)であるのですから、超天才でもとても一人では立ち向かえないし、試行錯誤の繰返しで時間もかかるし、多様な経験の積み重ねが必要ですし、多くのことを明確に分析し認識する必要があるため多数人の英知が結集されなければ難しいでしょう。おそらく、伝統的な演繹的思考方式や帰納的思考方式では限界があるのではないでしょうか。新たな思考法式、現在の状況・問題にフィットした思考方式が必要なのでしょう。例えばケ-ス・メソッド、例えばブレイクスル-思考、例えばパブリック・コメント、例えば「似たような状況において蓄積された経験」の起爆力、例えば為替の値付けのような多数人の参加、例えばフィデューシャリー、例えば唯識の阿頼耶識(?)・・・・・・
欧米型の市場型資本主義に欠かせない政治的・社会的・法的インフラやその他の
制度を構築し機能させるには、おそらくまるまる一世代はかかるだろう。
カレル・ヴァン・ウォルフレン 文芸春秋 '99.7
「「グローバル・スタンダード」と訣別せよ」
さてさて、実務に戻って、基金の<果たすべき約束>を達成するために必要になるインフラは、現在のところ、基金事務所では次のようなものが考えられるでしょう。
・経営目的 明文化
・経営指針 明文化
・年金給付体系 規約・規程
・積立計画 財政運営規程
・組織体制 統治・管理・運営システム、資産運用委員会規程
・業務体系 総幹事制(ゼネラリスト方式)又は指定法人(スペシャリスト方式) 指定年金数理人、業務委託(総幹事又は指定法人、Ⅱ型又はⅠA型)支払保証事業システム、退職給付債務会計
・資産運用管理 受託者責任(理事編)、受託者責任(運用機関編)資産運用鉄則、資産運用基本方針 戦略アセット・ミックス、運用管理規程、リスク管理基準 資産配分状況チェック表、運用機関総合評価取扱基準 時価評価基準、外貨建て資産運用為替管理基準
・情報開示 定期発行広報誌、ホ-ムペ-ジ
・情報収集 各種研究会参加、インタ-ネット、Eメ-ル、金融理論研究、読書等
当然、外部環境としては「年金法」の確立、マクロ経済方式からミクロ経済方式への転換、資源配分の国家統制を廃し効率市場の確立、契約法理から信任法理(日本では信託という言葉は汚れている、信認?)への移行等が基金の<果たすべき約束>にとって望ましいことは言を待つまいし、必要・不可欠なインフラでしょう。
要するに、これら全ては、基金に負託されたものを最良執行するときのインフラですが、同時に<人様のお金>に関わる者全員に求められる人格の資質を構成するものでもあります。長いこと疎んじられてきました<人様のお金>という感覚を見直す時期にきたということでありましょう。そおです、<人様のお金>という観点から世の中を見渡しますと、新しく何かが始まりはしませんでしょうか。そこに<果たすべき約束>を実現する日本の経済・社会の再構築へ向けての経路が開けはしないでしょうか。エクセレント・カンパニ-ではないですが、エクセレントな経営、<エクセレント・ペンション>のようなものが。
それでは、この<人様のお金>に負託されました<果たすべき約束>を実現するために求められるものは何になるのでしょうか。日本型資本主義の構造改革は歴史の必然でフロ-重視からストック重視へ移行するにつれて改まって行くことでしょう。その端初が持ち合い株式の放出、含み益経営からキャッシュ・フロ-計算書の採用、退職給付債務の計上、ROEからEVAによる株式評価等々であり、既にこれらは動きだしています。
日本やドイツでは企業グル-プというシステムができて、短期的利益を求める株
主の発言力が最小限に抑えられることになった。一方アメリカでは、年金や信託投
資の基金が主力となるシステムができて、株主の意向が経営に非常に強く反映され
るようになった。
L.サロ-『大接戦』-日米欧どこが勝つか 1992
このような状況下で、統制経済とその機能不全に対する現実認識・分析の徹底のうえで、制度のフレームワークの刷新、インフラストラクチュア-の確立、これらの背後に控えます世界観・哲学の見直しなどが必要になるでありましょう。
多くの社員は釈然としない。自分たちの会社(外資系企業)だと思っていたのに、
いまや株主のものだという。株主はカネを出すだけだが、社員は人生をかけている
のに。日本型経営は、従業員を主、株主を従と位置づけ、安定した人のネットワ-
クを重視してきた。だからこそ社員は、給料以上のエネルギ-を仕事に注いだし、
技術や知識を社内に蓄積した。
伊丹敬之(2000.7.30 天声人語)
①社会保障の夢を達成する
米国のM.N.カ-タ-とW.G.シップマンは『果たすべき約束』1996の中で、<社会保障の夢>を果たすべき約束として、賦課方式の限界を示しつつ、その達成を「個人社会保障口座」(Personal Social Security Account = PSSA)のアイデアで行うことを提案しています。
これは、企業年金のブァリエ-ションとしての401(k)の個人勘定の先に、社会保障のブァリエ-ションも個人勘定化しようというアイデアです。確定拠出型年金の導入も2001年4月が危ぶまれる日本の現状からすると、かなり前方を走っていることになりますが、エリサ法や401(k)の資産管理等のインフラ整備を考えると、2、30年の先行ということになりましょうか。日本でも、将来このようなアイデアが必要になるかも知れませんが、取敢えずは、足下の確定給付型年金の<果たすべき約束>を確実なものにすることが必要でしょう。
これらの機関投資家は、わが国の銀行を始めとするいわゆる法人投資家とは、本
質的に異なる。これらの機関は時として、「コンデュイ」(導管)と呼ばれるよう
に、決して金融機関の「オウン・マネ-」を自由に投資する投資家ではない。単に
委託者のために効率的な運用を請け負う「パイプ」にすぎず、運用手数料を除けば、
運用資産もその果実もすべてその所有者、あるいは受益者に帰属するのである。機
関投資家の投資マネジャ-は、いわば市民のエ-ジェントあるいはフィデュ-シャ
リ-として、職業的にその金融資産の効率的な運用を請け負っているのである。
井手正介・高橋文郎『株主価値創造革命』
②基金の<果たすべき約束>
「人様のお金」を預かる厚生年金基金の使命は、厚生年金基金の利害関係者に対してローコスト・ハイリターンな還元を行うことです。これを制度設立に際して、企業と労働サイドは基金に達成させるべく基金を設立申請したのであり、加入員等にはそれを約束したのでありきす。そもそもの始まりは、基金が自ら申請したのではありません。あくまでも設立発起人は企業であり労働サイドです。基金は負託を受けただけです。企業と労働サイドはローコスト・ハイリターンな還元が行われない場合にはそれを基金に督励する権利は保持しますが、加入員等に対しては基金を通じて一定基準の給付を約束したのですから<果たすべき約束>があるということです。
負託を受けた基金はと言えば、これを達成するために、積立金の原資産保全と効率的な資産運用により時価資産の極大化を求められることになります。まず始めに求められることは原資産保全の義務です。政治的な干渉を始めとして、大陸法法理による国家賠償法適用に
ロッキィ-ズ物語
10 チ-ムカラ-
-おぅい、ロッキィ-ズ、チョットうるさいぞ。規定すれすれだぞ。
試合は佳境に入り、岐路に立っている。部長、曰く
-応援は、フェアプレ-でやってくれ! 相手チ-ムの誹謗だけはなしだよ。
-自分等のチ-ムの子供達を奮い起たせるのに、うるさいもないもんだ。ナイス
プレ-には当然、相手もこっちもないけれどね。
市の野球大会では、ロッキィ-ズの応援は賑やかである。お母さん方を巻き込ん
で「打て、打て、ドンドン」というのがチ-ムカラ-である。ランナ-を2塁に送
るバント作戦はとらず、ヒットエンドランを多用し、2ランスクイズが好きな好戦
的なチ-ムだ。振って三振はともかく、見逃し三振だけは一斉にどやしつけら
れる。立ち向かわない選手は試合に出してもらえない。
-ぶったたけ、H。集中、集中。
-S! ポイント、まえだぞ! こねるなよ-。
-Y、前足、開くなよ! 大きく構えろ。
-高野コ-チ、レフトをラインぎわに寄せて! 得意でしょ、大声。
-ほかに能がないからねぇ。レフト-! N-! ライン締めろ!
よって有耶無耶にされる危険、規制で失われる得べかれし利益、護送船団方式の無競争によって失われた利益、金融混乱による資産管理会社の倒産による逸失、制度変更による資産そのものの没収、インフレ・デフレによる減価、時価会計下のボラティリティの波に掬われる危険等々、既に経験済みなものから今後発生しますでありましょう、今は名も無き多様なリスクに晒されている中で、原資産の保全が求められることになります。併せて、効率的な資産運用を展開し時価資産の極大化を目指すことになります。当然、これには過大なリスクは禁物というのは言うまでもないことですが、これを達成するためには逸失利益が生じないようにし、資本の生産性を向上させなければなりません。
そのためには、たとえば、戦費調達まがいの産業資本集約の金融インフラ(金利の統制・介入、間接金融政策、護送船団方式による銀行行政、銀行の株式保有による流動性の統制、国民の税金を担保にした信用供与体系等)の統制経済的構造と、それを追認する法理体系・財政システム等を刷新していかなければならないのでしょう。
さらに、上記の課題達成のためにも、従来の官中心の一部の人間による恣意的な政策立案というものは、ご免こうむりたいものです。中央集権的財政・行政の裁量手法は、第3セクタ-とか、地方自治とか、審議会方式とかに表面化しているようにもはや機能を終えているのであり、住民投票とかパブリック・コメントとかウェブのホームペーシとかROE・EVA等により切り開かれるものによって新しく構築されていくものなのでしょう。
この社会を「お上」から与えられたものと考えるのか、自分自身の意思でつくり
変えられるものと考えるのか、の問題だと思う。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
三ツ谷 誠「金融資産の行方」
新たな人材育成のため、官民共にゼネラリストの「年次玉突き人事」(日本経済新聞社・春秋・平成12年1月22日)を廃止、せめて10年は同一業務に就労させ、それぞれの場面のプロフェッショナル育成を図るべきでしょう。癒着を懸念という問題は別の問題です。2年で配置換えなどというのは専門性が求められるこれからの世の中では使いものにならないのですからご法度にしてもらいたいものです。先の日経の春秋子の記事によると、国の看板である外交官までもが2年で交代とか、恥ずかしいかぎりです。
これらを成就するには、専門性を確保し、効率性を最大化し、機動性を高め、個人性を追求する等、様々な要請が必要になりましょう。そうして、これを担保するには、新たな統治構造の構築が不可欠となります。しかし、それは、おそらく理念的に構想される類いのものとは違い、足下の徹底的な分析・認識により知り尽くすことがまず求められるでありましょうし、試行錯誤の切磋琢磨によって自から湧き上がって来るようなもの、無知なゼネラリストの「決める」ではなく、多人数の参加と多くの時間に拠って叩かれて丸められるようなものであり、スペシャリストに蓄積された経験からのみ導きだされるような艱難辛苦のすえに僥倖のごとく生み出され「決まる」ものでしょう。
しかし、これまでの状況を見ると、国家にすばらしいプロジェクトを民間よりも
勝って立案できる能力があろうはずもないし、結局、市場の評価を通じて、これを
(例えば株価の値上がりや新規公開の可能性などを)インセンティブとして良いプ
ロジェクトを発案してもらう以外に、日本経済を抜本的に改善する経路はなさそう
です。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
山崎 元「金融資産の行方」
③新たな統治構造の構築
基金の<果たすべき約束>を達成するために必要になるインフラは、多方面、多岐に渡り、とても、一人では、一基金ではカバ-出来ない範囲を対象とすることになりましょう。縦構造から水平構造へ、政策的法理(マクロ政策による統制経済推進のための法理)から純然法理(純然たる「法の支配」が確立された世界)支配によるグランドデザインを統治することになります。新しい時代には日本の伝統的な政治は無能です。とはいいましても、伝統的な<政治>に替わりますもの、未だ命名されていないそれは萌芽として散見しはじめています。
金利ゼロが示すものは「我々はとりあえず行き着いてしまった」という事実では
ないでしょうか。
我々のシステムはもはや何も新しいモノを生まない、生めない、成長しない、ゆ
えに金利がゼロになるのです。
JMM VOL3 編集長村上龍「美しき為替市場の魔力」
三ツ谷 誠「低金利の意味するもの」
要は、厚生年金基金の<人様のお金>にどう面接するかということ。そのために、どのような政治・法理・経済・財政・行政・金融等のインフラを整備するかということ。そのためには、一例として、
・哲学・社会学・経済学
・法制・行政・財政システム
・直接金融市場システム
・年金法
・受託者責任
・国際会計
・数理
・老後資金調達制度
・資産運用基本方針
・資産配分方法
・リスク管理手法
・運用機関評価方式
等々を網羅した一国の文化全体を形成するような膨大なインフラ(総合科学という人もいる)であるのですから、超天才でもとても一人では立ち向かえないし、試行錯誤の繰返しで時間もかかるし、多様な経験の積み重ねが必要ですし、多くのことを明確に分析し認識する必要があるため多数人の英知が結集されなければ難しいでしょう。おそらく、伝統的な演繹的思考方式や帰納的思考方式では限界があるのではないでしょうか。新たな思考法式、現在の状況・問題にフィットした思考方式が必要なのでしょう。例えばケ-ス・メソッド、例えばブレイクスル-思考、例えばパブリック・コメント、例えば「似たような状況において蓄積された経験」の起爆力、例えば為替の値付けのような多数人の参加、例えばフィデューシャリー、例えば唯識の阿頼耶識(?)・・・・・・
欧米型の市場型資本主義に欠かせない政治的・社会的・法的インフラやその他の
制度を構築し機能させるには、おそらくまるまる一世代はかかるだろう。
カレル・ヴァン・ウォルフレン 文芸春秋 '99.7
「「グローバル・スタンダード」と訣別せよ」
さてさて、実務に戻って、基金の<果たすべき約束>を達成するために必要になるインフラは、現在のところ、基金事務所では次のようなものが考えられるでしょう。
・経営目的 明文化
・経営指針 明文化
・年金給付体系 規約・規程
・積立計画 財政運営規程
・組織体制 統治・管理・運営システム、資産運用委員会規程
・業務体系 総幹事制(ゼネラリスト方式)又は指定法人(スペシャリスト方式) 指定年金数理人、業務委託(総幹事又は指定法人、Ⅱ型又はⅠA型)支払保証事業システム、退職給付債務会計
・資産運用管理 受託者責任(理事編)、受託者責任(運用機関編)資産運用鉄則、資産運用基本方針 戦略アセット・ミックス、運用管理規程、リスク管理基準 資産配分状況チェック表、運用機関総合評価取扱基準 時価評価基準、外貨建て資産運用為替管理基準
・情報開示 定期発行広報誌、ホ-ムペ-ジ
・情報収集 各種研究会参加、インタ-ネット、Eメ-ル、金融理論研究、読書等
当然、外部環境としては「年金法」の確立、マクロ経済方式からミクロ経済方式への転換、資源配分の国家統制を廃し効率市場の確立、契約法理から信任法理(日本では信託という言葉は汚れている、信認?)への移行等が基金の<果たすべき約束>にとって望ましいことは言を待つまいし、必要・不可欠なインフラでしょう。
要するに、これら全ては、基金に負託されたものを最良執行するときのインフラですが、同時に<人様のお金>に関わる者全員に求められる人格の資質を構成するものでもあります。長いこと疎んじられてきました<人様のお金>という感覚を見直す時期にきたということでありましょう。そおです、<人様のお金>という観点から世の中を見渡しますと、新しく何かが始まりはしませんでしょうか。そこに<果たすべき約束>を実現する日本の経済・社会の再構築へ向けての経路が開けはしないでしょうか。エクセレント・カンパニ-ではないですが、エクセレントな経営、<エクセレント・ペンション>のようなものが。
それでは、この<人様のお金>に負託されました<果たすべき約束>を実現するために求められるものは何になるのでしょうか。日本型資本主義の構造改革は歴史の必然でフロ-重視からストック重視へ移行するにつれて改まって行くことでしょう。その端初が持ち合い株式の放出、含み益経営からキャッシュ・フロ-計算書の採用、退職給付債務の計上、ROEからEVAによる株式評価等々であり、既にこれらは動きだしています。
日本やドイツでは企業グル-プというシステムができて、短期的利益を求める株
主の発言力が最小限に抑えられることになった。一方アメリカでは、年金や信託投
資の基金が主力となるシステムができて、株主の意向が経営に非常に強く反映され
るようになった。
L.サロ-『大接戦』-日米欧どこが勝つか 1992
このような状況下で、統制経済とその機能不全に対する現実認識・分析の徹底のうえで、制度のフレームワークの刷新、インフラストラクチュア-の確立、これらの背後に控えます世界観・哲学の見直しなどが必要になるでありましょう。
多くの社員は釈然としない。自分たちの会社(外資系企業)だと思っていたのに、
いまや株主のものだという。株主はカネを出すだけだが、社員は人生をかけている
のに。日本型経営は、従業員を主、株主を従と位置づけ、安定した人のネットワ-
クを重視してきた。だからこそ社員は、給料以上のエネルギ-を仕事に注いだし、
技術や知識を社内に蓄積した。
伊丹敬之(2000.7.30 天声人語)
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